医学的問題はさておき?
裁判所の和解勧告
(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者は肝転移を伴う進行S状結腸がんの穿孔のために入院。全身状態は安定しており、腹膜炎も限局であった。心疾患の既往があるため、臨時手術のリスクを考慮して、保存治療を行うことにしたが、翌日に腹膜炎が進行したため、S状結腸切除・人工肛門造設ドレナージを施行した。術後は急性腎不全・敗血症の集中治療を行い、経口摂取が可能となるまで回復。しかし、鼠径ヘルニア嚢内に膿瘍が認められ、鼠径部の切除によるドレナージを施行した。ヘルニア嚢内は洗浄していたが、3日後にヘルニア嚢内に小腸が入り穿孔をきたしたため、穿孔部縫合閉鎖・ドレナージ等を施行した。その際、使用したドレナージチューブは、ネラトン(ゴム製)であった。その後、腎不全・敗血症が悪化。播種性血管内凝固症候群(DIC)となり、持続緩徐式血液濾過透析(CHDF)や人工呼吸器などで集中治療を継続したが改善しなかった。患者はA医療機関に転院したが、数日後に敗血症・DICで死亡した。
患者側は、入院当日に手術をしなかったことを、医療過誤として訴訟を申し立てた。
医療機関は、患者の病態と全身状態から総合的に判断して、待機手術とした。また、入院の翌日に腹膜炎が拡がり、緊急手術をしたことも問題なく、術後経過も良好であった。しかし、小腸穿孔という不測の事態が発生し、結果不幸な転帰をとったが、この一連の経緯は予測不能であり、したがって医療過誤を明確に指摘されるものではないとした。
〈問題点〉
患者が医療過誤と訴えている保存治療、すなわち手術の遅延に関しては、死因と直接関係がないと言える。むしろ死因と関係あるのは、ヘルニア嚢内に小腸が入り穿孔をきたしたことである。医療機関側はドレナージチューブによる圧迫が穿孔原因との見解を示したが、その経過は不明であった。
紛争発生から解決まで約1年8カ月間要した。
〈結果〉
医療機関側は賠償責任まではないと主張していた。しかし、裁判所から和解勧告があり、有責・無責を争わず和解することとした。