変貌する国の医師政策 ― 偏在指標の議論進む
医師増認めず区域内での融通が「望ましい」
医師偏在解消策として導入が決まった医師偏在指標やそれに基づく医師多数区域・少数区域、それをふまえ、都道府県医師確保計画をめぐる国の議論が進む。11月28日にも厚生労働省・医療従事者の需給に関する検討会第24回医師需給分科会が開催され、2020年度から各都道府県にスタートさせる医師確保計画の方針や医師偏在解消の実効性等をめぐって協議がなされた。
医師の多いところから少ないところへ
協議において示された「医師の確保の方針についての基本的な考え方」は、医師少数三次医療圏、医師少数区域(二次医療圏)について、「医師を増やすことが基本」と述べる。ただし、偏在是正の観点から「医師の少ないところは、医師の多いところから医師の確保を行うことが望ましい」とした。
このことは、国の医師偏在対策の本質をよく物語っている。医師が少ない地域には医師を確保するが、医師総数を増やすことなく医師の多い地域から医師を移動させる方法で実現されるべきだ、というのが国の基本的な考え方なのである。
医師多数三次医療圏の医師は一人も増やさない
国が準備した医師偏在指標によって、上位〇〇%を医師多数三次医療圏(二次医療圏の場合は医師多数区域と呼ぶ)、下位〇〇%を医師少数三次医療圏(同医師少数区域)と設定することを前提として、医師の多い地域からの移動についても、いくつかのパターンがあげられている。
その前提に、新たな区域の考え方を示し、医師少数区域ではないが医師の確保を図るべき地域として〈医師少数地区〉、医師多数区域(または医師多数三次医療圏)・医師少数区域(または医師少数三次医療圏)以外の地域を〈医師中程度区域〉(または医師中程度三次医療圏)と呼ぶことを提案した。
たとえば、二次医療圏単位では医師少数区域がある三次医療圏であっても、三次医療圏全体が医師多数区域である場合には、他の三次医療圏からの医師の確保は行わない。逆に、医師少数三次医療圏にあっては、他の医師多数三次医療圏からの医師の確保を行うことができるとの考えが示された(図1)。
つまり、医師多数三次医療圏は、地域に医師少数区域を抱えていたとしても、三次医療圏を超えた医師確保は許さない。あくまで圏域内での調整を求めるのが基本的な考え方なのである。
地域枠学生の募集は「別枠方式」で
さらに、分科会では、現在時点の多寡と将来時点の多寡は分けて検討する必要性を述べ、現在の少数区域への対応は医師派遣・定着促進等といった、医師養成以外の方策(短期的な施策)を用いて行い、将来時点の多寡は大学医学部に対する地域枠・地元出身者枠の増員等の要請(長期的な施策)で対応するという(図2)。
報道によると、上記のうち長期的な対策については厚生労働省が47都道府県を対象に実施した地域枠履行状況等調査結果が報告され、医学生の選抜方法について「一般枠」と別枠で募集定員を設ける「別枠方式」の方が、一般枠と共通で選抜し、事前または事後に地域枠学生を募集する「手挙げ方式」に比べれば、奨学金貸与実績が高く、それに伴い義務年限終了までの推定義務履行率が94%(手挙げ方式は84%)と高いとの結果が強調された。これについてはすでに、同分科会の会合で大学医学部の地域枠入試の方法を「別枠方式」に限定することで合意しており、厚労省は10月25日付で、2020年度以降の大学医学部入試の増員分は別枠方式の地域枠で選抜するよう通知している。
医師を駒のように動かすのか
短期的な対策については、報道では分科会の議論で、「医師多数三次医療圏や区域の場合、個別の医療機関の医師確保方針も縛られてしまうのか」との質問が複数の委員から出された。ある委員からは、「医師を駒のように動かすことができるのか」との意見もあがったという。これに対し厚労省は、あくまでも都道府県の医師確保計画の考え方であり、個別の医療機関の医師採用を規制する話ではなく、そもそも規制は困難であるという考えを示したという。
だが、改正医療法上、医療機関には都道府県の地域医療対策協議会で、協議が整った事項(医師確保計画の実施に必要な事項)等について、協力する努力義務(公立医療機関は義務)があり、仮に個別医療機関の医師採用活動についても医師確保計画に従うとの協議が整えば、制限や禁止を加えることができるというのが、今回の法律の建付けであると考えられる。地域医療構想然り、今回の医師偏在指標然りだが、国の基本的な方針を都道府県に与え、自治体と地域の医療提供者の協議の枠組みを作り、そこで確認された範囲に医療者を嵌め込んでしまうのが、今進められている医療提供者改革のフォーマットなのである。
新専門医制度、働き方改革をめぐっても強まる介入
12月12日に開催された第25回分科会では、2020年度から導入される医師少数区域等で勤務した医師を認定する制度の協議が開始された。
医師偏在指標を用いた医師偏在是正、そのための都道府県医師確保計画策定へ向けた国の議論からは、一人ひとりの医師がどこで何を学び、働くかという医師の生き方へ強く踏み込む姿勢が見て取れる。
2018年7月に国会成立した改正医療法・医師法に基づき、日本専門医機構と新専門医制度における18基本領域学会に対し、厚生労働大臣の意見を聴くことが義務化されている(本紙第3039号主張参照)。「学問の自由」との衝突という憲法上の疑念すら無視し、自由開業制とフリーアクセスを前提に発展してきた日本の国民皆保険体制の歴史からも目を背けて進められているのが、今日の改革である。
一方、厚生労働省は、医師の働き方改革をめぐって、12月5日の医師の働き方改革に関する検討会で、国会で決められた多職種の時間外労働時間規制よりも、医師に対しては緩和した規制を適用する考えを提案した。医師の仕事の特殊性に鑑みたものということであろう。だが、医師偏在解消策と重ね合わせて考えれば、結局のところ必要な場所・時間に医師を確保するための方策が、医師の自由の制限や、医師の労働強化と自己犠牲を生むことを当然視して組み立てられていると言えるのではないか。
図1
図2