若い女性の腹部に15㎝の手術痕で調停に
(20歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者が胃痛と嘔吐のため、救急外来を受診。急性胃炎の診断で投薬処方を行ったが、症状の改善が認められず、後日他の医療機関を受診して虫垂炎の疑いを指摘された。患者は当該医療機関を再受診して虫垂炎と確定診断された。同日、腹腔鏡下虫垂炎切除手術を実施、1週間後に創部感染が認められたが、患者の希望で通院を条件に退院となった。その後、当該医療機関で遺残膿瘍、ダグラス窩膿瘍と診断され、患者に再手術の必要性を説明したが、患者は手術を拒否。別のA医療機関での診療を希望し、A医療機関で手術を実施。腹部に15㎝の手術痕を残すこととなった。
患者側は弁護士を立てて、証拠保全後に手術痕の残存について不満を表し、最終的には調停を申し立てた。
医療機関側としては、手術適応・手技ともに問題はなく腹腔内膿瘍は合併症として医療過誤はないと考えた。
紛争発生から解決まで約1年3カ月間要した。
〈問題点〉
腹腔鏡の適応・手技に問題は認められなかった。また、腹腔内の状況からドレナージが必要と判断し、ドレナージチューブも留置している。炎症が極めて強い虫垂切除後の腹腔内膿瘍であり、あり得る臨床経過であった。しかしながら、患者に対して合併症が起これば腹腔鏡下の手術でも再開腹をして手術創が残る可能性は常に説明しておいたほうがよい。仮に訴訟となった場合は、説明義務違反を追及される可能性があるだろう。
〈結果〉
医療機関側は調停においても、医療過誤は認めなかったが、紛争が長引くことと、患者側が当初の請求額の4分の1程度の和解額で納得する意向を示してきたことから、和解金を支払うことに同意した。