主張 浸食される医師のプロフェッショナルオートノミー  PDF

 10月16日、厚労大臣から日本専門医機構および関係学会への意見および要請が厚労省のホームページにアップされた。学会に対し政府が直接意見をするのは異例のことだ。
 今年7月25日に公布施行された医師法第16条が根拠になっている。18の基本領域の学会と総合診療専門医をつかさどる日本専門医機構に対して、医療提供体制の確保の観点からの意見と研修機会の確保の観点からの要請を厚生労働大臣が行うと定められ、医道審議会臨床研修部会(部会長・遠藤久夫氏、国立社会保障・人口問題研究所所長)を7月末に、これまた異例の速さで発足させ、厚労大臣の「意見および要請」を審議させて発出したという経過だ。
 厚労大臣、根本匠名の通知書には「貴会が平成三十一年度専門研修プログラムを定めるにあたり、医師法…に基づき、貴会に別添の通り意見および要請を申し上げる。各項につき真摯にご検討の上、今後のご対応につきご回答されたい」とある。時代錯誤的に高圧的な文言で、回答を求めている。各学会、日本専門医機構、日本医師会・医学会からは異議の声もなく沈黙したまま1カ月が過ぎた。
 新専門医制度の設計は「学会から独立した中立的な第三者機関で認定する新たな仕組みが必要」ということで始まった。ところが、第三者機関としてプロフェッショナルオートノミーを発揮することが期待された日本専門医機構には当事者能力が不十分で、医師偏在議論に巻き込まれた結果、これに参画した学会が政府と直結することになったのである。
 憲法23条は「学問の自由は、これを保障する」としている。医師偏在是正が大義名分であっても学会に直接政府が関与するのはこれに抵触するのではないか。
 実はこれには布石がある。2015年8月19日に 日本医師会・全国医学部長病院長会議が連名で「医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言 ―求められているのは医学部新設ではない―」という提言を出し、医師不足を否定したうえで医師偏在の解決のためには「医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」と述べたのである。
 新専門医制度は若い医師たちの意見を聞くことなく設計され開始された。そのため医師の資質の向上に資する制度だと言えないばかりか、開業規制や保険医定数制・定年制などへの道を切り開く突破口になろうとしている。日本医師会が自ら掲げるプロフェッショナルオートノミー「(1)患者診療に関して政府や行政機関等の外部による規制(他律)を受けないという自由、(2)患者診療に関して、自ら実効性のある自己規律のシステムを構築しそれにしたがって行動していくという積極的義務を伴った自由(すなわち専門研修による質の向上)」が危機に瀕している。かかる事態に慣らされてはならないと考える。

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