読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
「私物化」という病
このところ、私学に関連する事件・問題が目立つ。
森友学園の国有地取得、加計学園の獣医学部新設、日本大学のアメフト反則タックル、東京医大の入試不正などは大きく報道された。
事件・問題の中身はそれぞれ異なるが、共通するのはワンマン経営である。
しかも森友を除いて、社会的な騒動になっても、トップである理事長がろくに表に出て来ない。渋々出てきても、まともな受け答えをしない。
みんなの意見は聞かなくていい、ズルや不正をしてもいい、ばれたらごまかして逃げ回ればいい。そういうお手本を、教育の一環として示しているのだろうか。
ほかにも、独裁的な経営の私学はいくらでもある。理事長の多くは2世、3世、配偶者などである。私財を提供した創設者が発言力を持つのはまだわかるが、事実上の世襲があたりまえのように行われているのは、どうなのか。
創設者一族というだけで人格や能力と関係なく、社会的体裁のいい役職を約束され、けっこうな報酬を得る。
学校法人は、財産などの寄付をもとに設立される公益法人である。寄付しても株主や出資持分のような権利はなく、世襲の必然性はない。
教育という公益事業を行い、利益配分をしない代わりに、税制上の優遇措置を受ける。本業の法人税、事業税、固定資産税などは非課税になる。それ以外の収益事業の法人税率も軽減される。
私学という呼び方をするけれど、けっして私物ではない。公益のための組織であり、社会的責任がある。社会への説明責任を果たさない理事長は、失格である。
私立学校法によると、学校法人には理事5人以上、監事2人以上、評議員会を置く。
理事は、運営する学校の校長がなるほか、評議員と、それ以外から選出する。各理事の配偶者または3親等内の親族は1人しか許されない。
監事は理事長が評議員会の同意を得て選任する。
評議員は理事定数の2倍超の人数が必要で、職員、卒業生、その他から選出する。
ただし理事、評議員をどこでどうやって選ぶかは、寄附行為(法人の規則)で定める。寄附行為は文部科学省か知事の認可が必要だが、どういうルールまで許容されるのか、はっきりしない。
法人の適正運営の基本は、特定の個人が過剰な権力をふるわず、不当な利益を得ないようにすることだ。そこで一定の権力分立を導入しているわけだが、そのルールに不備な部分があるのではないか。
社会福祉法人でも、似たような私物化は少なくない。
医療法人も、公益性の高い社会医療法人などはもちろん、出資持分のない法人なら、法人と個人の混同は許されないし、世襲は当然ではない。
株式会社でも、様々な私物化による問題・事件が起きたため、しだいに会社法でルールが強化されてきた。
一定規模の法人については、たとえば労働組合の代表を必ず理事に加えるといった制度改革が必要だろう。
きっぱり意見を言えない人の多い日本社会の風土が根本問題ではあるにしても。