本宮浅間大社は富士宮市にある(写真1)。浅間の名前は、以前は「あさま」と読んでいた。火山のことを指す「あさま」を人知を越えたものである「神」として祀るのが始まりであった。第11代垂仁天皇が富士山山麓に「浅間大神(あさまのおおかみ)」を祀り、噴火を繰り返す山霊を鎮めたのが始まりとされている。浅間大社の主祭神は古事記や日本書紀に登場する女神「木花開耶姫(このはなさくやひめ)」で、日本神話において最も美しい存在とされている。天照大神の孫であるニニギノミコトがみそめ妻とし、一夜限りで身ごもったことに疑いを持つニニギノミコトにたいして、彼女は燃えさかる産屋の中でホデリ(海幸彦)、ホオリ(山幸彦)を産み彼女の貞淑さを示したという。そして神話では山幸彦の孫が初代神武天皇であると記されている。
実は、鎌倉後期より江戸初期までの富士山の祭神は、あのかぐや姫であった。日本最古の物語とされる「竹取物語」で竹の中から誕生したかぐや姫は竹取の翁夫婦に養われ、光るほどの美しさに育ち、5人の貴公子から求愛を受けるも種々の難題を課してこれを退ける。ついには帝の求婚をも拒否して、8月の十五夜に月の都の使者にともなわれて月へ帰っていく。最後は、帝が「詮方なし」と富士山頂で姫から贈られた文と不老不死の薬壺を焼くという神仙説話で終わっている。木花開耶姫が富士の祭神とされたのは、そののち時代が下ってからである。
旧社格は官幣大社で、約1300社ある浅間神社の総本社であり、富士山を御神体として祀る神社であり、富士信仰の中心地として知られる。
富士山頂上浅間大社奥宮(写真2)は表口(富士宮口)から上りつめた山頂に鎮座する。山頂の信仰遺跡群としてわずかな落差によって湧く霊水「金明水・銀明水」や「虎岩」「雷岩」「シャカの割れ石」などがありそれぞれに由緒がある。久須志神社とともに、ユネスコ認定の世界文化遺産「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一つとして世界文化遺産に登録されている。富士山頂には、最高峰剣ヶ峰3776mを含めて八つのピークがあり、八神峰(はっしんぽう)とも、仏教で極楽浄土を表す八葉(はちよう)の蓮華に見立てていることから八葉とも称される。北から東回りに白山岳(釈迦ヶ岳3756m)、久須志岳(薬師ヶ岳3740m)、成就岳(勢至ヶ岳3733m)伊豆岳(阿弥陀岳3750m)、朝日岳(大日岳3750m)、駒ヶ岳(浅間岳3715m)、三島岳(文珠ヶ岳3740m)が位置する。地図を見ると、頂上では山梨と静岡の県境が見られない。近年の裁判を経て、富士山の八合目から上は浅間大社の所有する奥宮境内地となっている。
参照『日本人は、なぜ富士山が好きか』竹谷靱負著(祥伝社2012年)
(写真1)富士山本宮浅間大社は徳川家康が関ケ原の戦いに勝利した御礼として本殿・拝殿などを造営し、八合目以上を境内地として寄進した
(写真2)富士山頂上浅間大社奥宮。向かって左に夏季に限り山頂郵便局がある
図 八神峰(出典:『富士山 まるごと大百科』佐野充監修 学研2015 教育出版社)