都道府県に対し、地域医療構想達成に向けた具体的対応を求める厚生労働省のテコ入れが強まっている。同省医政局は6月25日、「地域医療構想調整会議の活性化に向けた方策について」(医政地発0622第2号)を発出。①構想区域(二次医療圏)単位に設置が求められている地域医療構想調整会議について、都道府県単位の設置を求め、各構想区域の課題やその解決に向けた取組の進捗状況や区域を超えた課題について協議すること②都道府県主催研修会を開催し、各構想区域の関係者が認識を共有すること。研修内容については厚労省の担当者を派遣することが可能であること③地域医療構想アドバイザーを設置すること④個別の医療機関ごとの具体的対応方針の協議を進めること―を求めた。
医療費管理・抑制の重要な道具立て
地域医療構想達成は、経済財政運営と改革の基本方針2018における〈医療・介護提供体制の効率化とこれに向けた都道府県の取組の支援〉の項に、「地域医療構想の実現に向けた個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針について、昨年度に続いて集中的な検討を促し、2018年度中の策定を促進する」とあるように、その達成は厚生労働省単独の方針ではなく、政権の経済・財政方針である。同項には「一人当たり医療費の地域差半減、一人当たり介護費の地域差縮減」を目指す都道府県の取組強化も謳われており、地域医療構想が都道府県による医療費管理・抑制政策の重要な道具立てであることを物語っている。
病床機能報告と地域医療構想
各医療機関に、自らの2025年における病床機能を選択させる「病床機能報告」が今年度もスタートした。
周知のとおり病床機能報告は各医療機関の保持する病床が担う機能について、〈現状〉と〈6年後〉について高度急性期・急性期・回復期・慢性期のいずれかから1つ、病棟単位で選択させ、提出させるものであり、毎年の提出義務が課されている(図表1)。
例えば、A病院が今日急性期の病床を保持しているが、6年後にはこれを高度急性期にしたいと考えているとしたら、それを病床機能報告に書きこむ。
そこに書かれた将来構想が、地域医療構想に描かれた病床数・病床機能と整合しない場合、すなわち構想が必要とする以上の病床数となったり、特定の病床機能が過剰となったりすればどうするか。そこで、それを調整せよ、というのが地域医療構想調整会議である。
あらためて地域医療構想を批判する理由
協会は、地域医療構想について批判的見解を述べ続けてきた。2018年4月には地域医療構想の範囲でしか医業の自由が認められなくなるのはおかしいではないかと訴え、厚労省医政局への要請も実施している(本紙第3025号に既報)。
繰り返し指摘してきたことだが、地域医療構想は医療制度構造改革によって構築された都道府県による医療費管理・抑制システムの一環である。
国は都道府県に医療費適正化計画を策定させ、医療費支出目標を立てさせる。
その目標達成を目指し、都道府県化した国民健康保険の財政運営と、医療提供体制の管理を担当させる。地域医療構想はその一つの装置であり、病床機能報告もその一環である。構想が策定された今日、医療関係者はまるで義務のように、構想実現への協力を求められている。
さらに、地域医療構想の必要病床数算定の根拠である機能別医療需要推計の手法にも疑問がある。国が収集したレセプトデータをもとにはじき出した推計値は、必要な医療機関がないため、あるいはお金がなくて医療にかかれなかった人は存在しないことを前提としているからである。
機能別病床数目標の明確化と「定量的な基準」
しかし、国は地域医療構想達成に向けたテコ入れを強めている。
7月20日、厚生労働省の〈第15回地域医療構想に関するワーキンググループ(WG)〉※1では、各構想区域の地域医療構想調整会議における議論の状況について、資料が提示されている。全都道府県の全二次医療圏における調整会議の開催状況、国の求める公立病院・公的病院の機能見直し等、どの医療圏で議論が行われていないのか(どの自治体が国の指示に従っていないのか)を一覧化したものであり、そこでは京都府の「議論開始率0%」が目を引く。
また「公立・公的病院等を中心とした機能分化・連携の状況」データが、全都道府県分、病院名入で示されている。ここでも京都府の公立・公的病院が2025年に向けて果たすべき役割について議論がなされていないかのように見える。
国の望む方向で議論していない都道府県を視覚的に浮き上がらせる。そうした資料の作り込み自体が、国の姿勢をあらわしている。つまり、地域医療構想は、都道府県による主体的な医療確保策の後押しなどではなく、極めて中央統制的な仕組みなのである。
昨年3月に策定された京都府の地域医療構想(京都府地域包括ケア構想)は、国の示したガイドラインに基づく計算式を全面的には採用せず、二次医療圏ごとの必要病床数も独自に算出し、機能別病床数を具体的には書き込まなかった(図表2)。協会はそれを、府が医療政策の本旨を府民の医療保障に据えようとする姿勢の表れと評価してきた。だが今後、国の圧力が府の基本姿勢に影響を及ぼしかねないと危惧する。
特に危惧されるのは、機能別病床数の明確化である。
府は構想において機能別病床数を明確化しなかった理由を次のように語っている。「各病院において、病棟単位で高度急性期および急性期として提供する医療内容を明確に区分することが困難」「回復期は、病床機能報告制度における地域包括ケア病棟の位置づけが明確でなく、各病院により位置づけが異なっている」「介護療養病床を含む慢性期は今後も維持する必要があること、入院医療と在宅医療を明確に区分することが困難」。
恐らく、国にとってこの指摘は的を射ていた。
厚生労働省は地域医療構想に関するWGにおいて、病床機能報告における「定量的な基準」を検討した。第12回WG(2018年3月28日)で厚労省は、病床機能報告の集計結果と将来の病床の必要量との単純な比較から、回復期機能を担う病床が各構想区域で大幅に不足しているが、それは誤解である。なぜそうなっているかの理由として、回復期とは回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟に限定される等という間違った理解があること、回復期機能であるにもかかわらず、「急性期機能や慢性期機能と報告」しているケースがあると説明し、定量的な基準の導入の必要性を説いている※2。つまり、明確な機能分化の基準を定める必要性を述べたのである。
「地域の実情に応じた定量的基準導入」という名の統制
医政局が8月16日に発出した「地域医療構想調整会議の活性化のための地域の実情に応じた定量的な基準の導入について」は、そうした経緯を踏まえてのものであろう。だが通知は、定量的基準自体を示さず、「地域の実情に応じた定量的な基準」の導入を求めた。病床機能報告における機能区分の明確化については、例えば奈良県が「急性期」を「重症急性期」「軽症急性期」(50床あたりの手術と救急入院の件数が1日2件を目安に重症と軽症に分類)に分け、軽症急性期とは事実上回復期の需要を受け止めているとの独自の基準を設けた取組がある。「地域の実情に応じた」とは、こうした「先進事例」を受けたものであろう。
京都府が機能別病床数を明確化しない構想を策定したのは、地域の医療機関が歴史的に果たしてきた地域における役割を尊重し、上からの機能分化による医療機関同士の利害衝突を避け、結果として府民の医療保障を進めたいとの立場からであろう。だが、府がその理由として挙げた〈医療機能を分けることの困難さ〉に対し、国は「地域の実情に応じた定量的基準導入」という一つの回答を出してきた。困難だからやらないのではなく、実態を踏まえて考えよ、ということである。
万一、府が他の都道府県と同様に機能別病床数を決めてしまえば、誰が(どの病院が)自らの志向する病床機能を諦めるのか? という医療機関同士の対立が現実のものになる。それを生じさせるのは国がすすめる都道府県による医療費管理・抑制政策である。医療機関にとっても、地方自治体にとっても、その事態は決して歓迎されない。
※1 ワーキンググループは厚生労働省の〈医療計画の見直し等に関する検討会〉の附属機関である。
※2 第2回地域医療構想に関するワーキンググループ議事録