15年戦争のとき、日本政府が進めた「満州国」建設、「満蒙開拓」と名付けた開拓移民政策が生んだ被害者を扱った作品です。作者の荒木昭夫氏が、神門やす子氏の絵による「紙芝居」として、各地で上演してきた作品が絵本になりました。
今78歳となった主人公のやっちゃんは、移民として中国にわたった父母の間に生まれました。1945年8月6日の広島への原爆投下、日本の敗戦が不可避になった情勢下でのソビエト軍の満州侵攻。「産んでくれたお母さん」と逃げ惑うやっちゃんは、降り注ぐ爆弾が巻き上げた土と石に埋まってしまいました。そのとき、やっちゃんを助けたのは、「知らないお母さん」。そのあと、やっちゃんを育ててくれたのは中国人の「育ててくれたお母さん」。こうしてやっちゃんには3人のお母さんができたのです。
やっちゃんの生涯を描きながら、戦争と権力者の政策が尊い個人の人生を大きく翻弄した事実を記録する、実話に基づく物語となっています。
私が子どもの頃、テレビや新聞ではずいぶん残留邦人の話が報じられていました。
最近、話題に上ることがほとんどないように思いますが、決して忘れてはならない歴史の事実を、現代の、そして未来の子どもたちへ確かに伝える、そんな一冊です。
(事務局・中村 暁)
『やっちゃんと3人のお母さん』
文 荒木昭夫 え 神門やす子
ウインかもがわ刊
定価864円(税込)