私立大医学部は金持ち専用でよいのか
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
えこひいきや不公正があらゆる分野にはびこっている世の中だが、東京医大の入試不正にはさすがに驚いた。
試験の得点を操作して文科省高官の息子らを裏口入学させる。女子の受験生が不利になるように一律に減点する。
それを指示した大学トップたちの姿勢も、不正を可能にしていた学内の運営体制も、ネジがゆるんでいる。
女性医師が増えると医療現場が苦しくなるというのは、時代錯誤で本末転倒の言い訳だ。女性は医師として十分活躍できるし、それを妨げる労働条件や社会環境があるなら改善しないといけない。
公正も公平も欠いた高等教育機関から、公正・公平な態度で医療や研究に取り組む医師は育つだろうか。
受験や進学をめぐる公平という意味では、以前から疑問に思っていることがある。
私立大医学部の学費のべらぼうな高さである。
2018年度受験生用の学費一覧(河合塾医進塾による調査)を見ると、最も安い国際医療福祉大で初年度460万円、6年間の総費用1910万円。最も高い川崎医大では初年度1211万円、6年間の総費用4726万円。
目がくらむほど高額の学費を出せるのは、よほどの高所得者か資産家に限られる。実際、私立大医学部の学生には開業医の子どもが目立つ。
はたしてそれは、あたりまえのことだろうか。
私立大医学部には、国から多額の私学助成が出ている。私立大にも様々な学部がある中で、医学部に投じられている額は特別に大きい。
税金による巨大な公費助成を受けながら、高額の学費を設定して、金持ちの子どもばかりを医師にしていくというのは、おかしくないか。
高額の学費を取らないと本当に運営できないのか。
一般家庭や貧しい家庭の子が医師になりたければ、勉強を頑張って国公立大へ行けばよいというだけでは、公平にならない。同程度の学力の受験生でも、家が金持ちなら医学部へ進む機会が与えられ、そうでなければあきらめる。そういう不公平は、経済力による差別ではなかろうか。
税金を使うなら、一般家庭で払える程度、あるいは奨学金でどうにかなる程度の学費にして、進学の機会を公平に提供すべきではないか。
開業医の後継者が必要だ、子どもを医師にしないと地域医療が続かない、そういう意見が出るかもしれない。
それは一見、医療の公共性を掲げているように映るけれど、実は「富裕の連鎖」を求めているのではないか。もし貧富に関係なく私立大医学部へ進学できるようになれば、開業医の子が入学できる率は下がる。そういう状況を歓迎するのかどうか。
富裕層向けの大学が本当にほしいならば、国に頼らずに自前で財政運営すればいい。うんと高額の学費を取るなり、卒業生や企業から寄付を集めるなりすればいい。
経済力、権力、コネのある者ばかりが有利になる組織や社会は、活力や成長力が下がって衰退していく。公正・公平は社会の維持発展のためにも欠かせない。医学医療の維持発展も、そうであるはずだ。