医師が選んだ医事紛争事例 80  PDF

医療過誤はなかったのですが、病病連携も念頭に!

(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 当該患者は、8年間ほど左中大脳動脈閉塞症、脳梗塞、右片麻痺等で通院中であった。右足痙攣で整形外科を受診後、左足のむくみ、右足の痙攣で同医療機関の血管外科を紹介した。その後に足の痺れが激しくなったため入院。3DCTで両側腸骨動脈、両側浅大腿動脈に多発の狭窄を認めたため、心臓カテーテルと経皮的血管形成術(PTA)・ステント手術を予定して、いったん退院となった。しかし、すぐに再入院し、翌日に心臓カテーテル検査と経皮的冠動脈形成術を施行。右冠動脈狭窄は緊急手術、左冠動脈狭窄に関しては1カ月後に手術予定(下肢に関しては外来にて様子を見る)として、異常のないことを確認したうえで、独歩での退院となった。その後の外来受診時には特に訴えはなかった。ところがその後、四肢と臀部の痛みを訴えはじめ、最終的には右足の痛みを訴えてきた。左冠動脈狭窄の精査を予定していたが拒否され、断りもなく同系列病院のA医療機関に転院。そこで、左冠動脈狭窄の手術が施行された。
 患者側は、足の治療を頼んだのに、心臓の手術を無断で施行したこと、並びに右足の痛みは、心臓カテーテル検査と経皮的冠動脈形成術での過誤として、弁護士を介して調停を申し立てた。
 医療機関側としては、心臓カテーテル検査および経皮的冠動脈形成術は、突然死を回避するために施行したものであり適応はあった。また同意書もあり、患者が無断で手術を施行されたとの主張には客観的に反論できる。手技に関しても問題はない。したがって医療過誤はないと判断した。
 紛争発生から解決まで約2年7カ月間要した。
〈問題点〉
 心臓カテーテル検査と経皮的冠動脈形成術の適応はあり、優先順位からしても冠動脈を先に治療することに問題はなく、手技上の問題も認められなかった。右足の痛みと手術との因果関係も不明である。術後にも3DCT、ABIを施行しているが、両下肢の血流低下も見られない。さらに患者側が主張する説明義務違反も、カルテから全面的に否定できた。
 なお、A医療機関は当該医療機関と同系列であるにもかかわらず、当該主治医に何の連絡もせずに、患者に左冠動脈狭窄の手術を施行している。本来ならば、病病連携を図るべきであっただろう。
〈結果〉
 医療機関側が終始一貫して医療過誤を否定したので調停は不調に終わり、その後の患者の主張が絶えて久しくなったため、事実上の立ち消え解決とみなされた。

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