産婦人科医の視点から内科的疾患を診る 世代超えた女性の健康増進寄与へ  PDF

 7月21日、産婦人科診療内容向上会が京都産婦人科医会、京都府保険医協会、あすか製薬㈱の共催で京都市内のホテルにおいて開催された。出席者は111人。

産婦人科診療内容向上会レポート

 50回目を数える診療内容向上会が、7月21日に保険医協会などの共催で開催され、福島県立医大ふくしま子ども女性医療支援センター長の水沼英樹先生による特別講演が執り行われた。例年、盛夏の8月に行われるが、今年はこの時期に活躍する伝統的な太平洋高気圧に珍しくチベット高気圧が加わり、まさにダブルパンチで例年になく猛暑の中、ひと月早めの開催が時宜にかなっていたようだ。
 今年度の産婦人科診療内容向上会は長年、山下先生の味のあるご講演に替わり本年度から支払基金京都支部委員に就任された井上卓也先生から大変わかりやすく明快なご講演をいただいた。審査の最近の実情から始められ、最後は会員から寄せられた質問事項にも丁寧に答えられた。2020年には審査の90%がAIで行われる由、医師の裁量権や医療の不確実性が考慮されなくなるようである。
 小休止を挟んで水沼先生から“女性医学とホルモン補充療法”と題したご講演をいただいたが、将来を見据えた先進的なお話であった。水沼先生は近年、旧来の更年期医療に替わって産婦人科の第4の専門分野である女性医学に力を入れられ個人的にも学会でよく拝聴してきたが、今回のご講演はとりわけ面白いだけではなく実際の医療現場で仕事へのモチベーションを高められる内容であったこと感謝申しあげたい。イントロで産婦人科は“ビジネスからみれば決して魅力的な市場とはいえない”と話され、さもありなんと思いつつ、女性医学が女性のQOLの向上や予防医学的な見地から世代を超えて女性の健康増進に寄与していく使命を担っていて、産婦人科の視点から内科的疾患を診ていけばそれなりの需要はあるはずだと力説された。成人の高血圧や脂質異常は妊娠中の拡張期血圧の小幅な上昇にその萌芽があったり、GDM(妊娠糖尿病)を発症するとその1割は5年以内にDM(糖尿病)に移行するといったデータは衝撃的だった。要は妊娠中のデータが将来の生活習慣病の予知に役立つということで、妊婦を取り扱う産婦人科医がもっとも早くメタボの早期発見ができるかもしれないという画期的な推論であった。
 それから“小さく生んで大きく育てる”は誤りで妊娠中の低い成長曲線をもつ母体からは2500グラム以下の新生児が1割超、出産されるという。現代女性の子宮内環境はなお改善の余地があることがうかがわれた。さらに昔と比べ月経回数が多いことから、子宮内膜症の発症が増え、その罹患者は卵巣がんや子宮体がんになる確率が高くなるだけでなく内分泌代謝疾患や冠動脈疾患を患うことが多くなっていくらしい。そして、20年後には日本女性の年齢構成が大きく変貌を遂げ、すなわち20歳から49歳までの成熟期女性が25%も減少する一方で、50歳以降の女性は6%以上、増えるらしい。確かにわたしもこの1年で外来患者の年齢が明らかに上昇していることを肌で感じている。したがって、今後の産婦人科診療はいままでのようなライフステージ毎の疾患を加療して事足れりではなく、切れ目なく継続して、まさにかかりつけ医のような役割をすべきだという。そのためには患者のこころをしっかりとつかまえていく努力が必要だろう。今回の水沼先生のお話で特にわれわれ開業医は意識改革の必要性を再認識でき今後につながる有意な夕べの時間であった。ありがとうございました。
(宇治久世・阿部 純)

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