(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者に経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行。造影上の良好な拡張と血管内超音波検査(IVUS)確認後に終了した。ところが翌日の朝、患者が左眼の視力障害を訴えた。なお、患者は術直後より視力障害を認識していたよう。PCI施行時に抗凝固剤(ヘパリンR)と、脳梗塞の点滴(ノバスタンR)が投与されていた経緯があった。患者は眼科で左網膜動脈閉塞症と診断され、左眼がほぼ失明状態となった。右眼に関して視力は正常とのこと。
患者側は、手術同意書にサインはしたが、失明の可能性について説明を受けておらず、賠償を請求したいと主張。医療機関側としては、診断および手術の適応と手技に問題はないが、説明は同意書のみで、それで充分であったか否か疑問とのことだった。失明については極めて稀な合併症なので説明しなかった。なお、事後処置については問題ないとのことであった。
紛争発生から解決まで約10カ月間を要した。
〈問題点〉
診断・適応・手技・事後処置に問題は認められない。患者側は失明に対する説明がなかったとの訴えであったが、当該患者には5回PCIが施行されており、それぞれ同意書は聴取してあった。脳血管障害についての項目は同意書に記載されていたが、当該医師は脳血管障害について説明した記憶がない。過去のPCIは他の医師が施行していて、その同意書やカルテにも心臓に関する説明は記載されていたが、脳血管障害については説明の記載がなかった。
しかしながら、失明に関しては稀な合併症であり、脳血管障害についての項目が同意書にあることから、特に説明する義務はないと思われる。本来ならば、脳血管障害についても説明をして、その旨をカルテに記載をしておくべきであっただろうが、説明義務違反を問うほどではないと判断された。
〈結果〉
調査の結果、医療過誤は認められないことを患者側に伝えたところ、クレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。
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