地域の医療現場で抱える課題や実情を伺う、「シリーズ・地域医療をきく!」。第4回は、宇治市の医療法人かどさか内科クリニック院長の門阪庄三医師(宇治久世)と京都山城総合医療センター院長の中井一郎医師(相楽)を訪問した。
宇治編
行政と議論重ねつつ
医師会の役割発揮を
門阪氏は、医師会では医療資源の配分をテーマに、それぞれの職種で何が問題になっているのかを浮き彫りにすることを目的として、多職種の代表者会議を開催していることを紹介。主なメンバーはケアマネジャー、訪問看護師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士、山城北医療圏の2市1町の行政の人たち。また、府の保健師などに参加してもらっていると述べた。
医療課題いろんな角度からアプローチ
ただ、医師会も含めそれぞれの職能団体の会員が同じ方向を向いているとは限らず、その代表として出てきてもらっていても、団体の総意になる場合もならない場合もある。企業などであれば同じ方針のもと、いかにその方針を達成できるか組織として方策を打ち出すのだろうが、職能団体はそういった組織とは違う。多職種との連携会議を継続しつつ、アプローチの仕方を少し変えてみてもいいかもしれないと考え、市町村が責任主体となる地域密着型サービスの研修と指導の分野で、そこに医師会も参加し、より行政と密な関係を築き上げながら、個々の課題についても議論を重ねていければと述べた。
また、医師偏在問題について、山城北医療圏の医師数は潤沢ではなく、全国平均以下だと指摘。特に病院の小児科勤務医は減少傾向で、病院も危機感を持っているだろう。私見だが、開業医ももう少し増えてもらいたいと考えていると述べた。2025年の在宅医療問題について京都府は病院の訪問看護をあてがうなどと方針を出しているが、病院に余裕があるとも思えないとした。
新生児から高齢者まで医療提供の全体像を
行政から医師会に求められている活動としては、看取りまでを含めた在宅医療、認知症のケアが大きな柱だと思っている。ここから、さらに医療・介護の全体を見渡すような運動が医師会でできればと考えている。新生児から高齢者まで、医師会がどう地域とコミットしていくかというのが命題だと述べた。
現時点では在宅医療の問題が喫緊の課題であるため、そこに集中していくしかないが、必要な医療・介護提供体制の全体像を、行政とともにもう一度我々としても描き出す必要がある。その絵の中にどういった職種がどの分野を担っているかを落とし込み、不足している分野を洗い出す作業が必要ではないか。門阪氏は、簡単なことではないが、多職種と連携し、行政を巻き込んで作りあげていくしかないと考えているとした。
木津川編
行政と手を携え
地域医療の永続性を
中井氏は、山城南医療圏の東西の人口格差について、危機感を持っており、これ以上人口減少が進めば、自治体消滅になりかねないと考えているとした。しかし、多くの医療機関は民営であり、人のいないところで開業できるわけがない。大変難しい問題で行政も苦慮しているのだろうが、この問題に対する明確なビジョンが出てこない。我々が医療提供体制を描く立場にあるわけではなく、行政から明確なビジョンが出てこない以上、誰も動けないままで、それが歯がゆいと述べた。
地域ごとに必要な枠組みを
地域医療を守るにはどうしたら良いのか。行政にも本気で考えてもらう必要があるし、そのための協力は惜しまないとし、実際のところ、行政の人たちだけでは、医療提供の細かい部分までは把握しきれないだろう。行政が財政のみで判断した場合、非採算の地域であれば撤退などの効率化の提案しか出てこないかもしれない。だからこそ、現場で医療を担っている医師や保健師などと議論を重ねる必要があるとした。そのうえでこの地域に必要な医療・介護の提供体制の枠組を形づくってもらえれば、我々医療提供者がその枠の中に必要な医療を提案し埋め込んでいく仕事ができるだろう。「今さえしのげればよい」というようなものでなく、永続性を持たせる体制が必要だと述べた。
病診連携推進も行政が要
また、国は地域で在宅医療を進めろというが、例えばリハビリだけのサービス提供で在宅を成り立たせることはできない。認知症の患者さんの問題もある。開業医が中心となり在宅医療を提供する中で、当院と連携し、月に一度は当院でも訪問看護師を派遣することなどは可能だろう。しかし、こうした連携の絵を同じ事業所である当院が描いては摩擦しか起きないと述べ、やはり、行政で描いてほしいと強調した。
幸い山城南医療圏には、地域の全体を把握している保健師がいる。医療資源の不足をどうしていくか考える際には、保健師と開業医が中心となり、その後方支援に我々のような病院、周囲をさまざまな職種で固め、サポートすることは可能だと考える。職種を超えて地域医療を支える者たちの思いは「患者さんを何とか助けたい」ということだ。行政と手を携えて、この地域の医療を守っていきたいと述べた。
すでに10年前にこの病院は地域のためのケアミックスを宣言している。そして、眼の前には超高齢社会という現実がある。当院が急性期だけでなく、ケアミックス化した医療・介護施設であることを地域の人たちに広く周知し、地域医療支援病院として地域住民のニーズに応じた医療展開と他の医療、介護施設等との連携を図り、切れ目のない医療・ケアシステムを構築したいとした。
人材確保と医師キャリアの矛盾を指摘
また、医師偏在問題に関連し、京都府地域医療確保奨学金制度について、学生にしっかりと奨学金の意図が伝わっていないことを指摘。この間、受け入れた6人の研修医のうち3人がこの制度を利用。当院は奨学金免除対象となる地域医療機関ではないと説明したが、ちゃんとわかっていなかったと事例を紹介した。
学生にしてみれば研修医が終了し、そこからどういった専門を選択するか、自分はどういう医療を行いたいのか、自身の医師キャリアを考える。いわば、伸び盛りのころだ。新専門医制度も始まっている中、奨学金を借りたのだから地方の医療機関に行きなさいと言われても、自身のやりたい専門の指導医がいなければ、その道は閉ざされることになる。これは酷ではないかと述べた。医師に対して地方に行けというのではなく、対象地域の病院に対して、人材確保のために一定の給与補てんなどを行った方が良いのではないかと提案した。