医師が選んだ医事紛争事例 74  PDF

カルテの記載が有効であったケース

(50歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 クモ膜下出血で初診。患者は、開頭手術と子宮全摘術を施行した経緯があり、以後脳神経外科に通院中であった。口腔内・舌にピリピリ感を感じたため、他のA医療機関循環器科を受診したが異常は認められなかった。当該医療機関にも同症状で受診して頭部CT、心電図検査を施行して異常はなかったが、症状が改善されないため翌日に観察入院となった。後日、夫が車椅子でトイレに患者を誘導したところ、トイレ内で患者が前方に倒れたためナースコールをした。すぐにストレッチャーで病室に移動させたが、血圧測定は不可能だった。看護師はただちにバックマスクによる人工呼吸と心臓マッサージを開始した。急変後15分経過して、医師が到着し蘇生処置を継続したが、約40分後に患者の死亡が確認された。なお、解剖は患者家族に拒否されたが、死亡診断書上の死因は肺梗塞と記入した。
 患者側は、胸が苦しいことを伝えていたのに医師にも看護師にも伝わっていなかった。患者の世話も夫に任せきりであったとして不満を表し、弁護士を介して調停を申し立てた。
 医療機関側としては、脳外科的・循環器科的に異常は認められなかった。蘇生処置も遅延とは判断できないので医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約2年11カ月間要した。
〈問題点〉
 必要と思われる検査等の記録は当然ながら、胸が苦しいことも、カルテに数回にわたり記載されており、患者側の伝わっていなかったという主張は否定された。患者の急変から医師が到着するまで15分間かかっているが、それまでに看護師が措置をしており、もっと医師が早く対応していれば患者は救命できたとは言えない。したがって、医療機関側に過誤を認める要因は認められなかった。
〈結果〉
 調停は医療機関側が医療過誤を否定したので不調となったが、その後に患者側の主張が途絶えて久しくなったために、事実上の立ち消え解決と見做された。調停での主張に患者側が理解を示したと推測される。

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