全都道府県が地域医療構想(2016年)と同構想を盛り込んだ医療計画を策定(2018年)した。この4月は医療大転換の発動の時である。国は都道府県に対し4月からの第3期医療費適正化計画(6箇年計画)を策定させ、市町村国保を都道府県化(運営方針は3箇年で見直し)、新しい医療計画(6箇年計画)を一体的にスタートさせた。すなわち医療費支出目標を設定させ、その上で医療提供体制と国保財政管理を一体的に担わせる体制が本格スタートしたのである。国は、構築された体制を足場にさらなる政策展開を企図している。それを明るみにしたのが「地域医療構想調整会議の進め方について」(医政地発0207第1号2018年2月7日)と「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」(2018年3月13日国会提出)である。表立ったメインテーマは「医師・医療機関偏在の解消」であり、真のテーマは「医療費の地域差縮減」である。今号では、厚労省が2月7日に発出した「地域医療構想調整会議の進め方について」を紹介し、そのねらいを検討する。
Ⅰ 通知「地域医療構想の進め方について」が語っていること
地域医療構想の実現プロセス
同通知の添付資料は、地域医療構想が目指す2025年の必要病床数の実現に向けた取組を三つのステップに分けて整理している。ステップ1として、構想区域ごとの地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で、各病院の役割と将来の方向性を共有。ステップ2で地域医療介護総合確保基金(以下、基金)を使い、構想実現のための各病院の機能転換等に伴う施設整備等に補助金を交付。ステップ3で、自主的な取組だけでは構想実現が叶わない場合、知事権限を発動させる。
通知は各都道府県に2年間程度で「具体的対応方針のとりまとめ」の策定を求める。これは経済財政諮問会議の「骨太方針2017」が求めていたことである。とりまとめには全入院医療機関の2025年の役割と機能別病床数を含めるよう求めている。その議論は調整会議でなされる。
公立病院・公的病院は民間と違う立場で構想実現へ協力させる
まずは個々の入院医療機関が自らの対応方針を立てる必要がある。この際、公立・公的病院等には特別な対応を求めている。
公立病院に対しては「新公立改革プラン」策定を求めた。同プランは「新公立病院改革ガイドライン(2015年)に基づき策定する。ガイドラインはかつて三位一体改革や市町村合併推進、地方財政健全化法による連結赤字比率の導入等によって地方自治体財政縮減圧力が強められる中で導入されたものであり、設立主体に対して、①経営の効率化(経常収支比率等の数値目標を設定)②再編・ネットワーク化(経営主体の統合、病院機能の再編を推進)③経営形態の見直し(地方独立行政法人化等を推進)―の三つの取組を通じ、財政効率化を求めた。新ガイドラインには四つ目として「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」が加えられた。
公立病院は過疎地域の医療や不採算部門の医療、高度・先進医療提供、医師派遣の拠点機能が求められる存在であり、地域の医療保障を底から支えてきた。しかし通知は、「構想区域の医療需要や現状の病床稼働率を踏まえてもなお、そうした医療を公立病院において提供することが必要であるのかどうか、民間医療機関との役割分担を踏まえ公立病院でなければ担えない分野へ重点化されているかどうかについて確認すること」と、それらの役割をも自己点検せよという。
公立病院を除く公的医療機関等に対しても「公的医療機関等2025プラン」策定が求められ、公的医療機関でなければ担えない分野へ重点化しているかを「確認」するよう求めた。
以上のように公立病院・公的病院は、スタートの時点から民間病院とは違う立場で構想実現への協力が求められた。
調整会議での協議と知事権限発動で過剰な病床機能への転換、増床を認めない
公立・公的以外の病院(「その他の医療機関」)が開設者変更を含め、構想区域で役割・機能を大きく変更しようとする場合、当該医療機関は今後の事業計画を策定した上で、調整会議で協議するよう求める。協議が整わない場合も繰り返し協議し、対応方針を決定させる。その他すべての医療機関は遅くとも2018年度中に対応方針を調整会議で協議するよう求める。
さらに、都道府県は公立病院改革プラン、公的医療機関等2025プラン、病床機能報告の結果から、過剰な病床機能への転換を目指す医療機関の計画を「把握」した場合、速やかに当該医療機関を調整会議へ出席させ、理由を説明させる。もし、その理由等が認められないものであれば、都道府県医療審議会の意見を聴いた上で、病床機能を変更しないよう命令(公立・公的医療機関)または要請(その他の医療機関)、それでもダメなら勧告する。なおも従わない場合、医療機関名を公表する。
稼働していない病床のある病棟を持つ医療機関には、調整会議でその理由と今後の運用見通しを説明させる。これが病床過剰地域でのケースならば削減するよう知事権限を発動する。また病棟再稼働の場合も調整会議で説明、議論させる。
また、都道府県は新たな病床整備や開設者変更を目指す医療機関(個人間継承を含む)を「把握」した場合、開設許可を待たず調整会議に出席させ、説明させる。それが不足する医療機能以外の機能を目指している場合等には、不足する医療機能を担うことを開設許可の条件とするよう知事権限を発動する。
調整会議で個別の医療機関の取組状況を共有させる
調整会議では、個々の医療機関の医療機能と診療実績を共有させる。高度急性期・急性期機能を担うとして、「明らかな疑義のある報告」をした医療機関については、調整会議で妥当性を確認する。病床機能報告制度についても「ある機能を選択した病棟に対し、『その機能らしい』医療の内容に関する項目」について、すべて該当しない病棟の機能についても調整会議で確認する。
医療・介護総合確保基金の対象に事業縮小の経費を明記
構想達成の手段としての「医療・介護総合確保基金」は、都道府県が造成・管理し、「都道府県計画」に基づき交付する。2018年度も医療分934億円(うち国負担は622億。介護分は724億円で国負担483億円)が予算措置される。
基金(医療分)の対象となる事業について2月7日、「地域医療介護総合確保基金(医療分)に係る標準事業例の取り扱いについて」の通知(医政地発0207第4号)が発出され、地域医療構想達成のための「事業縮小費用」にも基金を使える旨が示された。
具体的には、病床削減に伴い不要となる病棟・病室等の多用途への変更経費や建物処分に伴う財務諸表上の特別損失に当たる経費、早期退職制度の活用による退職金の割り増し相当額である。
国による上意下達の構想は地域医療の未来像にふさわしいのか?
各病院がどのような医療を提供・実践するかという方針は、医業の初心にかかわる事柄である。だが通知は地域医療構想実現を至上命題に、各病院の方針を公然と下位に置いた。これは、かつてない転換点として指摘せねばならないことだ。
調整会議を使い、構想実現相容れないと思しき個別方針を排除する。それも一見主体的議論と錯覚させて個々の医業方針をあきらめさせ、変更させる。地域医療構想のもとに病院経営を従属させるものであり、現在の基準病床数による病床規制の比ではない、医療への国家介入である。
報道では、第141回日本医師会臨時代議員会で同会理事が「民間医療機関が、公立・公的医療機関等よりも、先に淘汰される事態が起きてはならない」「公立・公的医療機関等しか担えない分野に重点化しているかを検証し、公私の医療機関の競合があれば、公の方を撤退させることになる」と語ったという。無論、地域を支える民間の中小病院が構想達成の犠牲になってはならないとの立場からの発言であろう。
しかしながら、地域医療構想の医療需要推計や病床数推計に基づく地域の病床配分などは国の政策的方針に過ぎない。根底には医療費抑制方針があり、医療費の地域差縮減がある。通知が語るのはそのための医業経営への管理・統制策である。入院医療を担うすべての医療者は本当にこの道で良いと一致できるのか。
今日、明日そして近い将来に、この地域でどんな医療がどれだけ必要であるか。それを行政とともに医療機関が議論し、知恵を出しあい、検討・共有することは良い。だが、共有される医療の未来像は、国の医療費抑制方針と切り離され、地域の人々の生活と医療の現実から浮かび上がったものでなければならないはずである。
しかし、国は地域医療構想のさらなる活用を企図し、より管理・統制的な医療費適正化方策の導入を狙っている。
それが国会提出された医療法・医師法改正法案である。
(次号に続く)