主張 「町医者」 が支える第一線医療 医師・患者が望む医療の実現を  PDF

 ここ数年、医学というか、医療政策上、新しい動きがある。医療経済の上で看過できない数点の話題を取り上げてみる。たとえば医師・診療科偏在問題にかこつけた自由開業制の見直しが議論の俎上にあがっている。また、ほころびが一杯見られる慌ただしい専門医制度が強引に開始され、ざわつきを覚える。
 個人情報の漏洩や不正使用によるプライバシー侵害などが憂慮されるマイナンバー制度がいつの間にか堂々と表街道に出てきている。たとえば患者が各種の請求をするときにもマイナンバーを求められることが普通になってきている。政府による完全な医療統制は大丈夫だろうか。スマホを使ったソリューションの発達により、離島など「医療にアクセスしがたい人用です」と極めて響きの良い、甘言で誘う遠隔診療。しかし、今、政府が進めようとしている遠隔診療は、医療費削減を目的にした経済成長戦略の一環として位置づけられるものではないだろうか。対面診療には到底及ばないことは明らかだ。
 どうしようもない構造的な経済の破綻なのだろう。人口構成の影響で、医療費が極端に必要な高齢者がどんどん増加の一途、医学の進歩は今までにない恩恵を私たちに与えてくれる一方で、莫大なコストを求めてきているのはよく理解できる。優秀とされてきた日本の官僚機構はこれに対して、医療費削減しか方法が残されていないとして、先ほどのような諸制度の適用で乗り越えようと、経済財政諮問委員会、各種規制制度諮問専門委員会などに下駄を預けて分かりにくくしている。いったい国民はどうなるのか、誰のためになるのか、「お上」の考え、いわゆるエスタブリッシュメントのものでないのかとさえ考えてしまう。
 日本のマスコミが勝手に言っているだけかもしれない。日本は礼節を重んじる国だと。大きな権威には決して逆らわない。「お上」はご無理ごもっともの時代の名残のように思えて仕方がない。美談ですんでいるだけなら笑い話で終わるが、実際に実在の世界でアニメの世界のようなものが通用したのでは迷惑な話だ。
 医療者も、つい、大きな権威の前では萎縮しがちだ。そのときにサポートするのが保険医協会である。たとえば、個別指導時の技官の態度、大変大きな力でのしかかる監査など。協会では保険診療に対する個別指導・監査の改善に腐心している。弁護士帯同、録音がやっと可能になってきたが、近畿厚生局との懇談を見ていると、まさしく「お上」からの一方的な通達のような気がしてならない。人を人として扱わない、上から目線の発言。何か大きな力の前でひれ伏さなくてはならない、そんな思いがわいてくる。
 大きな力に対抗するためには、しっかりしたバックアップの下で、交渉しなければならない。そのひとつが保険医協会の運動ではないだろうか。
 「町医者」、いい響きだ。何か、一段下のように、一般医を蔑んでいっているが、こういった第一線の「町医者」が日本の医療を支えて、第一線の医療に到達できる国を作ってきたと思いたいものだ。

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