貧しすぎる水準に生活保護を合わせるのか
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
またしても、政府が保障する「最低限度の生活」のレベルが下がる。それは、はたして「健康で文化的な」と形容できる水準なのだろうか。
厚生労働省は、生活保護の8種類の扶助のうち、主たる生活費である生活扶助の基準を平均1・8%(最大5%)下げることを決めた。2018年10月から20年10月まで3段階に分けて実施される。
改定の影響は年齢、世帯人数、地域によって違い、地方の郡部はプラスの傾向だが、大都市部、高齢者、単身者、子どもの多い世帯はマイナスになる。生活保護は大都市部の高齢単身者が多いので、上がる世帯は26%、変わらない世帯が8%で、下がる世帯が67%にのぼる。
たとえば京都市で50~60代の単身者の場合、現在は月約8万円の生活扶助が約7万6千円になる。1日2500円ほどだ。それで食事、衣料品、光熱費、通信費、交通費、教養費、交際費などをまかない、耐久財の買い替え用の蓄えもしないといけない。
生活扶助の基準ダウンは13年8月から15年4月にかけ、期末一時扶助を含めて平均7・3%(最大10%)の大幅引き下げが行われたのに続くものだ。15年7月からは住宅扶助の限度額引き下げ、同年11月からは冬季加算(暖房費)の引き下げも行われた。
生活保護の基準が下がると、保護世帯への給付額が減るだけでなく、保護の要否の判定ラインが下がり、これまで保護の対象になりえた世帯が利用できなくなる。就学援助の基準や医療保険、介護保険、障害者福祉など他の制度の負担区分にも影響し、保護を受けていない低所得世帯の保険料や自己負担も増える。
今回の改定は、14年に行われた総務省の全国消費実態調査のデータをもとに、年収が最下位10%にある世帯の消費支出の状況と比べて、生活扶助基準のほうを調整した。そのうえで減額幅を最大5%に抑えてはいるのだが、要するに最貧困層の生活水準に合わせたということだ。
逆に言うと、最下位10%層には、現行の保護基準を下回る消費生活水準の世帯が多数含まれる。恥の意識、福祉事務所の冷たい対応、自動車を手放すと生活できない、貯蓄を使い切るのは困るといった事情で、保護を受けずに厳しい暮らしに耐えている人々。
おそらく公的年金額の減った高齢者が多く、子どもの教育のために生活費を切り詰めている世帯もあるだろう。
本来なら、そういう人々の暮らしをどうやって底上げするかを考えないといけない。
しかも90年代後半から国民の所得水準、生活水準は全体として低下が続いている。そんな状況で、最貧困層に合わせる方式を繰り返したら、保護基準は下がる一方で、絶対的な最低限度の生活の保障はなくなってしまう。
また、前回の改定では08↓11年に生活扶助相当の消費者物価指数(住宅費、医療費などを除いたもの)が4・8%下がったという理由で保護基準を大幅に下げたのに、今回は消費水準を比較した14年以降、16年までの間に生活扶助相当の物価が0・9%上昇したのを無視した。
ご都合主義を駆使した弱い者いじめと言うほかない。