玄野 現在、医師会として力を入れていることの一つが在宅医療です。これまでは病院で亡くなられる方がほとんどだったと思いますが、最近は自宅で最期を迎えたいという方が増えてきています。しかし、医師会としてそういった思いに対し、まだ十分な手当ができていない現状があります。
日本全体の人口が減っている中で、当然この地域の人口も減っていくことが予想されます。船井は医療資源も乏しいですし、我々開業医ももちろん歳を取っていくわけで、これから先もいろんな課題が出てくると思います。
仁丹 最近、在宅医療の流れが大きくなっていますが、いろんな面を考えても必要なことだと思います。我々が開業した頃は、在宅医療に取り組むのは当然のことでした。往診先で、「おじいちゃん、もう亡くなるから身内の人を呼んであげて」と看取っていた。今は、体調を崩したら病院で検査して、異常が見つかれば入院。最期も病院で亡くなることがほとんどでしょう。これが国の医療費が膨らんでいる原因の一つです。医療技術も相当進み、高価な薬剤も出てきています。それ自体ありがたいことですが、延命治療の全てが手放しで喜べるものかどうか、考える必要もあるのではないでしょうか。
廣野 当時は救急車もなかったし、患者さんもお年寄りは家で療養し、看取るものだという意識はかなり強かったですね。そこに私たちの役割がありました。今は家族の中に病院志向が働くようになりました。何かあったら救急車を呼び、病院に行く。病院の方が適切な医療を受けることができるという考えになっている。かかりつけの患者さんでも、何かあると救急車を呼んで病院に行かれます。
2000年に介護保険制度が始まり、他職種との関わりが増えてきました。しかし、それまで私たちは開業医として、患者さんの生活のこと、介護のことなど、他職種の方がしていることまで助言したりしていました。最近は地域包括ケアということが重視されていますので、さらに他職種が入ってきて、開業医の仕事は医療に限られることになり、それ以外のことは他職種の方との連携が重視されるようになってきています。そのぶん楽になったと言えるのかもしれませんが、私たちがやってきたことと、今の在宅医療が医師に求めていることは違うのかなという思いです。
吉田 かつては往診が当たり前の時代ですよね。今は在宅医療と呼ばれていますが、やっていることは往診の延長上のことだと思います。ただご指摘の通り家族の考え方が変わっただけでなく、家に人がいなくなりましたね。仕事を休んでまで介護するより、入院あるいは施設入所する方が楽ですよ。ですから今は家で亡くなる人は圧倒的に少ない。8割方は病院か施設です。開業医も患者が24時間連絡が取れる体制の整備など、制度上のハードルもある。国がいう在宅医療の方針は、地域によって違いがあるかもしれませんが、この南丹地域に限って言えば、進めるのは難しいのではないですか。
玄野 独居のお年寄り、あるいは老老介護の方は、どうしても在宅に移れないケースが多いようです。在宅医療はある程度恵まれた環境がないと難しいかもしれません。その中で南丹市は施設が多くて、入所までそう長く順番待ちをすることもない状況です。そういう点では恵まれているのかもしれません。
廣野 往診と訪問診療とがありますでしょ。往診は減っているんです。一方、訪問診療は増えているんです。在宅で介護されて、定期的に診療に行って、病気が進んだら、病院と連携して入院したり、施設入所したりする。そういうのは多いですね。
仁丹 私らの頃は往診がほとんでしたね。
佐藤 患者さんはできれば家で最期を迎えたいと思っていますよね。けれども家族の事情などでそれができない。
吉田 家で看取るというのはとても覚悟のいることなんですよ。当初は家で見ていても、いざ病気が進行していくと、とても家で見ることができなくなってしまう。
仁丹 年寄りがいったん病気になった場合、家族は退職して面倒を見ることができるか、そういう難しさもある。
玄野 介護破産という言葉もありますね。親の介護のために子が退職してしまうと、たとえ親の病状が安定しても再就職が難しい。在宅でみるというのは大変なことです。
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