続 記者の視点77  PDF

無料低額診療から生活困窮者医療へ
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 調子が悪くても、お金が足りなくて医療にかかれない、受診を続けられない。そんな患者の存在に気づいたことはないだろうか。
 生活保護なら医療費の心配はないが、経済的に困っている人のすべてが生活保護を利用できているわけではない。
 生活保護基準を少し上回る収入の世帯は、社会保険料や各種の自己負担がかかり、実際の暮らしは保護世帯より苦しい。国民健康保険料を払えず、実質的に無保険の人もいる。ホームレス状態、DV被害者、短期滞在資格の外国人のように、保険を使えない人や加入できない人もいる。
 そういうときに役立つのが、無料低額診療を行う医科・歯科の医療機関である。
 無料低額診療は社会福祉法による第二種社会福祉事業で、生計困難者の医療費を医療機関の裁量で減免できる。
 減免対象とする患者の範囲は医療機関によって差があり、収入が保護基準の1・2倍~1・5倍以下の世帯としていることが多い。全額無料というケースはまれで、保険があれば自己負担分だけ減免する(残りは保険給付)。
 事業を行うときの必須要件は、①減免方法の明示②医療ソーシャルワーカーの配置③診療費の10%以上の減免を受けた患者と生活保護の患者の合計が患者延べ数の10%以上④生計困難者や被保護者向けに無料の健康相談や保健教育を行う――である。
 実施する医療機関への経済的メリットとして、固定資産税、不動産取得税、法人税、法人住民税が減免される。
 この事業を行う医療機関は2009年度以降、増えており、15年度の実績では全国で病院347、診療所300。減免患者は延べ777万人にのぼる(厚労省集計)。
 済生会、民医連、生協、社会福祉法人、宗教法人の医療機関が多いが、一般の病院、診療所も要件を満たせば、自治体へ届けて事業を始められる。多くの患者を助けたいという心意気のある経営者、医師は、ぜひ検討してほしい。
 とはいえ、戦後まもない1951年に始まった制度で、矛盾や課題はたくさんある。
 薬局の無料低額調剤が認められておらず、院外処方で薬代がかかるときに困る。
 利用が数か月以内、1年以内といった短期に限られ、治療が長引いた時に困る。
 社会福祉法人や公益法人、生協などで、もともと固定資産税や法人税がかからない場合は、経済的見返りがない。
 対象患者数のカウント基準に生活保護を含めているのは今の状況に合うのか。
 そもそも公立の医療機関こそ取り組むべきではないか。
 経済的に苦しい人に医療の機会を保障することの社会的な必要性は高く、時代に合わせた改革、合理的で安定した制度への移行が必要だろう。
 たとえば、生活困窮者自立支援法のメニューに生活困窮者医療を設け、事業費を出せないか。保険の自己負担割合そのものを年齢層別から、所得階層別に変えてはどうか。
 筆者も参加している無料低額診療事業近畿研究会は1月14日午後、大阪・難波のM&Dホールで「無料低額診療を考えるフォーラム」を開く。議論の輪を広げ、率直な意見交換を行いたい。

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