対象者=代議員89人、回答数=44(回答率49・4%)
調査期間=2017年9月22日~10月10日
医療現場を悩ます応召義務
協会は、会員に対して常に医療安全対策を啓発している。2012年に医療安全対策部会で「対応に苦慮する患者さんたち―応召義務について」と題した医療安全シンポジウムを開催したところ、例年の2倍近い参加者があり、会員がいかに患者対応に苦慮しているかの結果と考えた。そして17年現在では、医師の働き方が問題となっており、報道によると「全国医師ユニオン」や「東京過労死を考える家族の会」などが長時間労働の一因となっている応召義務の廃止や法改正を求める声明を発表している(17年9月4日)。応召義務が患者対応のみならず、医師の実生活などにも大きな影響を与えかねない様子が窺われる。そういったことから今回は、応召義務についての意識・実態を調査するために、アンケート調査を行った。
時間外、どこまで対応?
応召義務の周知度を確認したところ「よく知っている」「まあまあ知っている」で8割を超過していたが、「全く知らない」が1人いた(図1)。これは応召義務そのものを全く知らないということではなく、応召義務が医師法第19条に規定されていることを知らなかったということではないだろうか。いずれにせよ、協会として、機会あるごとにこれからも応召義務についての問題提起をしていきたい。
次に、応召義務の意識の有無を尋ねた。「ある」は4割未満となっており(図2)、日常診療においては、度々意識するものではないようだ。しかしながら、頻繁とはいえないにしても、協会にも会員から応召義務についての問い合わせや相談があり、相談者が真剣に悩んでいる状況が散見される。今までの相談では比較的、短期間に解決できる問題が多いので、お悩みになった際は躊躇することなく協会まで連絡をいただきたい。
続いて、応召義務にかかわるトラブルを尋ねた。「ない」が9割を超過しているのは、歓迎すべきであろうが、1人だけ「ある」と答えている(図3)。具体的な内容が記載されていたのでここにあげる。
「診療時間が済んで5分くらいして電話で受診依頼があり、所用有り無理と言うと応召義務がないのかと言われた。すぐなら診るが来れるのかと言ったら電話を切られた」
この対応では時間外でも医師が「診る意思」を患者側に伝えているので問題はないと思われる。また、他の医療機関が周辺にある場合は、その医療機関を紹介するという方法も考えられる。
困ったときは協会へ相談を
また、応召義務に刑事罰がないことを確認したところ、8割以上が「知らない」であった(図4)。このこと自体はそれほど大きな問題とは思われないが、協会が会員からの相談を聞く中で、必要以上に応召義務を意識し、あるいは「恐れて」いる様子も垣間見られる。応召義務の捉え方は、その場面場面で考えなければならない複雑な問題も絡んでいるが、必要以上に医師が恐れて、無理難題を言ってくる患者に翻弄されないようにしなければ、日常診療に悪影響を与えかねない。
その一方で、刑事罰はないが、たとえレアケースであっても、民事裁判を申し立てられたり、行政処分の対象にもなり得ることは十分理解していただきたい。このように応召義務は突き詰めて考えだすと、極めて悩ましい状況に陥りやすいものである。その時こそ、協会は会員各位のより良き相談相手としていつでも対応させていただくので、思い立った時、困った時こそご相談いただきたい。
最後に、応召義務が免責される「正当な事由」についての希望・意見を尋ねたところ、11人から回答を得たので全てをあげる(左掲)。
図1「応召義務」が医師法第19条で定められていることをご存知ですか。
図2「応召義務」を意識したこと、あるいは患者さんから意識させられたご経験はありますか。
図3「応召義務」に関して患者さんとトラブルになりかけた、あるいはなったことはありますか。
図4「応召義務」違反に刑事罰がないことをご存知ですか。
応召義務が免責される「正当な事由」についての希望・意見
1.①専門外であることが明白な患者、②医師の飲酒時の診療、③飛行機内などの急病者、④往診が通常の手段でアクセスできない場所など、⑤今後、遠隔診療が進むとテレビ電話で判断を強制されることも出てくるかもわかりません。
2.クレーマーのような(病気の変化が明らかに認められないのに、頻回に来るケースなど)状況での対応。
3.「医療は進んでいる」「早期発見・早期治療が大事」などの言葉が医療者側からよく言われますが、この言葉を聞くと「病気・怪我は直ぐ診て貰わなければならない」に繋がり、どんな事情があろうと断れないことに繋がることもあると考えます。
4.最初から不払いと宣言して受診してくる例。第三者行為で受傷した場合等で「被害者だから払う必要はない」という誤った認識を強く持って受診されるケース等。
5.通達で広義にも狭義にでも捉えられるような状況と言うのは今の医師の労働環境を考えると不適切のように思います。むしろ応召義務を存続させるか廃止するかの議論をすべきではないでしょうか? 廃止しなければトラブルは常に起こり得ると考えます。
6.診療所と住居が同一建物の場合、休日や時間外に電話連絡なしに受診される場合があるが、その時も必ず応召しなければならないのか?(勿論、救急事態には応じます)
7.勤務医ならば、院外に退出した後。開業医ならば外出中。「正当でない事由」を通達で出して貰い、それ以外は「正当な事由」として認める。つまり「正当な事由」を通達で出されているのでそれ以外は正当でないという論理になっているのが現状です。「正当な事由」として認められないものを列挙して貰えば、それ以外は全て「正当な事由」になります。
8.一方的な「権利」を主張する患者が増えている昨今、医師と患者の立場はイーブンであって診療を拒否する権利は認められるべきである。
9.患者本人や家族、第三者の関係者と称する人からの不当な圧力。言葉・圧力態度があるとき。待合室で粗暴な言動で他の患者さんが恐怖を感じるとき。
10.度々に明らかに故意と思われる不払いは正当な事由と認めてほしい。
11.少し脱線しますが、留守番電話に時間外診療を求めるメッセージが入っていた時、どう対応すべきかいつも悩んでいます。