読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
戦争、 憲法、 強権を問う総選挙
予想外の政党の大混乱を経て、総選挙である。
国政選挙では一般的に、生活課題での論戦が最重要だと筆者は考えてきた。多くの有権者の関心は景気、税金、福祉といった暮らしの問題にあり、たいていの選挙で、その争点が選挙結果をいちばん左右する。次いで大きく響くのはスキャンダルである。
日常から遠くに見える外交・安保や、国民の素養の低い法律的なテーマは、投票行動に影響しにくい。
しかしながら今回は、安全保障、憲法と、それに関連する強権的政治が本質的な争点だと考える。
理由の一つは、経済・税制・社会保障の争点がわかりにくいからだ。消費税引き上げ分はすべて社会保障に充てると安倍首相が言い出し、各党の主張や論点の見分けが簡単ではなくなった。アベノミクスの恩恵は大企業など一部に偏っているが、景気は悪くない。社会・労働政策では安倍政権が看板を何度も架け替えつつ、開明的に映る言葉を繰り返してきた。それらの政策の当否や財源のあり方は、込み入った議論になる。
もう一つの理由は、北朝鮮との戦争の危険が現実にありうるからだ。北朝鮮は米国からの攻撃が怖くて核開発してきたのだから、圧力を強めるほど核戦力を増強する。
想定されるのは、偶発的衝突や謀略から始まる米国による攻撃だ。トランプ大統領は核兵器の恐ろしさを知らないから、韓国、日本や米国の一部に北朝鮮が核で反撃した場合の惨禍をさほど重大視しないのではないか。一方、北朝鮮の逆上的暴発もありうる。
解散はモリカケ隠しだけでなく、日本も戦争に加わる局面に向け、統制を強める意図があったのかもしれない。
小池百合子氏が作った希望の党と民進党全体が合流してソフトな「中道」を掲げれば、フランスのように民意を大きく吸収する可能性はあった。安倍政権下で自民党全体が右へ傾き、穏健保守と中道の位置が空いているからだ。そういう政党が総選挙で勝てば、いつも強者と手を組む公明党も寄ってきただろう。
だが小池氏は、支持率の高さを見て、自らの強権ぶりと右翼的思想を発揮する道へ走った。民進党のリベラル派と実力者を容赦なく排除する手法でメディアの喝采を浴びようとした。準与党と言うべき維新とも連携した。
政権交代を目指すなら、安倍政権批判を強め、自民党からも政治家を引き抜けばよいのだが、それはやらない。
やったのは「左つぶし」である。民進党の前原誠司氏もそれに最初から同調していたようだ。そういう強権と右寄り路線が「おごり2号」に映るかどうかによって希望の議席数は変わる。
選挙の後、安倍退陣になるかどうかは別にして、自公希維の大連立、あるいは実質的な連立の可能性が高くなる。全体として右派が増え、強権的手法、国民統制が強まる。戦争の危機と相まって9条を含む改憲の発議へ進む。
そういう意味で歴史的に見た焦点は、立憲民主、共産、社民などで、改憲発議を阻める衆院の3分の1超(156議席)を取れるかどうか。ハードルはかなり高い。
(個人の見解であり、会社とは関係ありません)