社会保障の充実が何よりの少子化対策となる
保険部会 森 啓之
小児科医である私が校医を担当している小学校では生徒数は最盛期の5分の1となり、保健福祉センターの4カ月健診では、小学校が10校もある地域でも健診に来る乳児は月40人に満たない。少子化が実感される今日この頃である。
子育てをするには、まず親自身の経済的な安定が必須となるが、現状は非正規雇用が40%である。厳しい国際競争の中、企業が不況時の調整要員としているのであろうが、特に世帯主がそうだった場合、将来設計は全くできなくなる。世帯平均所得金額は1994年の664・2万円をピークに減少し続け、15年では545・2万円となり、相対貧困率も15・6%と6世帯に1世帯の割合で世帯年収122万円以下である。現役世帯の貯蓄率はゼロとなり、医療・介護といった将来への備えどころか、その日一日を生活することで精一杯だろう。その上教育までとなると、とても余裕がない。せっかく立派に育ったとしても、その先に待っているのが非正規雇用だとしたら、どうやって子どもを産み育てる気持ちになるだろう。
年々増大する社会保障費により国の財政が破綻するという主張はわかる。しかし社会保障目的でなされた消費税8%への増税では、何か国民に恩恵があったのだろうか? 2%増税すれば、幼児教育・介護が無償化できるというが、目に見えるものは何もなかったのではないか。
暗い話になってしまったが、5月13日に協会主催で開催されたフォーラム「政治は変えられる」の井出英策氏の講演は刺激的だった。日本の財政は支出の多さよりむしろ税収が少ないことが問題で、せめて欧米並みの負担で税収を確保し、それを所得に分け隔てなく保育・教育・医療・介護などの現物給付に回せば、格差は今よりも解消され、低所得層も誇りを持って暮らせるようになり、将来に備えて貯蓄する必要性も減り、経済も回る、という主張は傾聴に値した。こうした対案がもっと出てきてほしいと思う。