医師が選んだ医事紛争事例64  PDF

ケナコルトで瘢痕が残った

(10歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 約1年前に猫に咬まれた跡がケロイド状態となって治らないために受診した。主治医のA医師が右下肢上部に3カ所、ケナコルト2・5㎎を局所注射で投与したが、効果が認められなかったので、その後に4・5㎎を投与した。3回目の投与はB医師が施行して経過観察をしていたところ、注射部位から放射状に星形の瘢痕が発症し来院してきた。その後、治療を続行しながら経過を見てきたが、瘢痕は完全には消失しなかった。なお、症状固定まで患者は合計18回、当該医療機関のみで診療を受けた。
 患者側は、ケナコルトの注射施行時期が早過ぎた結果、瘢痕が残ったとして慰謝料を請求してきた。
 医療機関側としては、A医師が「局所注射の施行時期がやや早かった」と患者側に対して発言したことは事実であることを認め、投与時期、投与量ともに若干の問題があったとして過誤を認めた。更にカルテによると、2回目の注射時に、本来ケロイドに直接注射液を入れなければならないところ、ケロイドの周辺に薬液が漏れた旨が記載されており、手技的にも問題があったとした。なお、患者は痛み等、知覚障害は訴えなかったが、身体的要因としてケロイドになりやすい体質であった。
 紛争発生から解決まで約4年4カ月間を要した。
〈問題点〉
 この案件について、院内で総合的に話し合いをされた様子が窺われず、事後の調査が思うように進まなかった。当該医療機関には紛争対応の不十分さが認められた。なお、以下の点がポイントとなることが推測された。
 ①2回目の注射施行時の手技の是非②3回にわたるケナコルトの投与量の是非。能書によれば10㎎までとされている③3回にわたるケナコルトの投与時期の是非。能書によれば2週間以上とされている。
 ①について、瘢痕の状態から見て因果関係はあると推測された。②について、能書によれば許容範囲内の投与量となるが、患者が14歳であることとケロイドの大きさが1㎝~2㎝程度しかないことを考慮すると、多過ぎたとの判断もあり得る。③については、A医師の「局所注射の施行時期がやや早かった」との発言だけでは、1回から3回のどの時期を言っているのか、あるいは全ての期間を言っているのか不明であった。
〈結果〉
 当該医療機関は事故の調査に消極的であり、患者への事後対応も明確にしなかったが、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったために、立ち消えとみなして終了した。本来ならば、事後説明を十分にすることで患者の納得を得るのが通常だが、今回、立ち消え解決できたのは例外と言えよう。

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