子どもだましの「こども保険」構想
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
「こども保険」を創設しようという動きが出ている。厚生年金・国民年金の保険料に、こども保険料を上乗せ徴収し、それを財源に児童手当を増やそうというものだ。
しかし、なぜ社会保険方式なのか。それで制度を設計できるのか。示されている内容は、あまりにも素人っぽい。
構想は、小泉進次郎氏ら若手議員でつくる自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」が3月に提言した。
厚生年金保険の事業主と被保険者から、それぞれ報酬の0・1%(国民年金加入者は月160円程度)を徴収すれば、年間3400億円になり、小学校入学前の子ども約600万人分の児童手当を月5000円上積みできる。将来は0・5%(国民年金加入者は月830円程度)に引き上げれば年間1・7兆円になり、児童手当を月2万5000円増額できる。そうすれば幼児教育・保育の保護者負担が実質なくなる、という。
社会保障の世代間公平に役立ち、消費税率のアップや教育国債の発行に比べて経済や財政への影響が少ない、とも説明している。
子育て支援の財源を新たに確保しようと考えること自体は悪くないものの、この程度の幼い案が党・政府の検討対象になりうることに驚く。
第1の問題は、保険の原理に反する点にある。人生の過程で生活を危うくするリスクを、社会的に分散して分かち合うのが公的な社会保険制度である。保険だから、給付が行われるのは原則、保険事故が起きた時である。
現在ある社会保険は、年金(給付対象は老齢、障害、遺族)、医療、介護、雇用、労災である。いずれも加入対象者は、保険事故が起きる可能性を否定できない人々である。
こども保険は年金保険料への上乗せだから高齢者の多くは外れるとしても、子育てを終えた人、子どもをつくれない人・つくらない人など、子育てに伴う出費リスクのない人々から保険料を取るのは、まるでスジが通らない。
第2に、社会保険料は定率負担のうえ、計算の基礎となる報酬額設定に上限があるため、税に比べ、低所得層ほど実質的な負担割合が重く、格差を拡大する作用を持つ。
第3に、無理に社会保険にすると、何らかの事情で保険に加入しなかった人が給付対象外になる可能性がある。
第4に、現行の児童手当(今年度予算で給付額2兆1985億円)の財源について全く言及がない。厚生年金加入者分の3歳未満の児童手当の財源のうち15分の7は、以前から事業主負担になっている。「子ども・子育て拠出金」として今年度は報酬額の0・23%を全額事業主から徴収している(一部は保育支援事業にも使用)。児童手当を増やすために企業にも負担を求めたいなら、保険をつくるより、この拠出金を上げればよい。
第5に、就学前の支援しか想定せず、高等教育段階の重い学費負担の軽減を考えていないのは、お粗末である。
まっとうな方法は税財源の拡充だろう。富裕層・大法人に甘い税制を見直すのが先決だ。あるいは「子育て支援税」の新設を考えるほうが、よほどましである。