医師が選んだ医事紛争事例 59  PDF

腹式単純子宮全摘術後に水腎症

(40歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
子宮筋腫に対して、腹式単純子宮全摘術を横切開にて施行した。手術室には3人の医師がいた。術後に痛みを訴えたので鎮痛剤を要したが、その他に異常は認められなかった。患者はすぐに退院となったが、3週間後の術後検診で左水腎症が確認され、左側腹部痛が持続していたことが確認された。また、泌尿器科において左尿管閉塞と診断され再入院となり、尿管鏡で膀胱側から再開通を試みたが不可能であったため、左腎瘻造設術を施行した。後日、腎盂からの造影で、閉塞部位は左尿管下端の膀胱近位部であることが判明した。患者は退院したが再々入院となった。
患者側は完全な医療過誤であるとして、休業損害を含め賠償請求を行った。
医療機関側としては、子宮周囲の靭帯や膣管を結紮切断する際や、止血縫合時に意図せず付近を走行していた尿管を巻き込んでしまった、あるいは子宮周囲の靭帯の切断部などが治療過程で瘢痕化する際に、付近にある尿管が徐々に引き連れて閉塞したと推測した。いずれにせよ、術中に尿管の同定を繰り返し行い、尿管が近ければ剥離するなどの操作をより慎重に施行していれば、予防可能であったとして過誤を認めた。また、患者が術後から腹部痛を訴えていたが、創部痛と判断していたので、水腎症の発見が遅れたことも問題であった。
紛争発生から解決まで約9カ月間要した。
〈問題点〉
診断と腹式単純子宮全摘術の適応に問題はないが、手技に関しては医療機関側の主張通り、慎重にしていれば事故は発生しなかったと考えられる。原因は特定できないが、過誤であることは明らかであろう。さらに、患者は術後から腹部痛を訴え続けていたにもかかわらず、医療機関側は創部痛と判断して、対応が1カ月遅延している。事後処置としても過失が認められよう。
〈結果〉
医療機関側が全面的に過誤を認めて、医療費も含めて賠償金を支払い示談した。

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