紛争発端の一言「私が診てさえいれば…」
(0歳男児)
〈事故の概要と経過〉
母親は37歳で初産婦だった。前期破水し骨盤位であったため、翌日に産婦人科医師3人と麻酔科医師1人による緊急帝王切開を施行した。臀部が発露するまでは若干手間取ったが、それ以降はスムーズに娩出した。男児のAPスコアは10点、体重2860gで観察異常なし。ところが2日後に右下腿浮腫を認め、その3時間後に右大腿腫脹が著明となった。そこで整形外科を受診したところ、X―P上、右大腿骨骨幹部骨折が判明した。
患者側は、当初、カルテ開示の要求をしたが、実際には開示されておらず、十分な治療を求めた後に賠償請求してきた。
医療機関側としては、男児の骨折は娩出時に右大腿部に負担がかかり、その後、自動的もしくは他動的運動により発生した可能性が極めて高いと推測した。また、発症時期が48時間もかかっているのは分娩時外傷としては遅いが、その理由としては軽い骨折がすでに起こっていたのではないかと推測した。予後については男児が新生児であったので、最低でも1年間は様子を見る必要があった。男児に特段に骨折しやすい体質があるか否か遺伝子の検査をするとのことであった。また、仮に術直前にエコーを撮っていれば、切開部位が多少異なり骨折に至らなかった可能性も否定はできないとのことだった。なお、術前の説明で、母体のリスクについては通常通り行ったが、男児のリスクについては言及していなかった。
紛争発生から解決まで約4年7カ月間要した。
〈問題点〉
卒後4年の産婦人科医師が当該医師であったが、仮にベテランの医師であっても、避けられなかった可能性はある。しかしながら、胎児は骨盤位で、かなり下がっていたことがレントゲンで判明していたので、エコー等を撮ってより慎重にすべきであったかもしれない。
なお、上司の医師が「自分ならこんな事故にはならなかった」と発言した経緯があったが、根拠に薄く院内の人間関係や体制に疑問を感じざるを得なかった。医療安全は組織が一丸となって対応しなければならないが、当該医療機関の環境には問題があったと思われる。先述の通り、医療機関側が事実上の過誤を認めた形となったため、賠償責任を半分程度は持つべきと判断された。
〈結果〉
完全な過誤とは判断し難いが、結局、医療機関側は全面的に過誤を認めて、患者の症状固定後に示談した。