専門科目外の医療行為の是非と責任
応召義務違反の問題は、診療の不作為として十分な医療資源の投入が困難な例えば救急医療等の場において最も先鋭的に現れ得る。しかし、医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病・傷害について診療を求められた場合、そのことを理由とする診療拒否を患者が了承せず依然診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならないとされる(昭和24・9・10医発752)。その場合、他科が専門の医療処置を実施せざるを得ず、その是非が問題となる。関連する事例を挙げる。
1957年6月20日午後10時20分、市営鉄筋アパート建築現場において、48歳男X1は、一級建築士として現場監督の職務に従事中、足許のバランスが崩れて右手首をモーターのベルトに巻き込まれて同部の骨折を受傷し、Y1法人K病院を受診した。たまたま在院中のY1法人K医院内科医長のY2医師の診察を受けた。「負傷した右手は、軍手をはめたままで、右腕関節から先の右手首は、皮膚の一部とその他の軟骨の一部だけで僅かに右前膊に付着し、大部分は離断しており、手首の骨は粉砕され、軟骨はずたずたになってぶら下がりほとんど完全に挫滅し、コンクリートや砂その他の汚物が混入し、さらに右胸部の前後面から右上膊にかけ出血を伴う大小様々の多数の不規則な挫創があ」り、更に右上膊の止血帯を外すと「離断しかかっている手首が付着している前膊部分から多量の出血があり指先まで血行が達しない」と認識し、離断術の適応と判断し、当直医で産婦人科女医を立会わせ11時に麻酔下で手関節離断術を実施した。翌日、同院外科医師に依頼して約3㎝の追加切断がなされた。
そこで翌年、X1・妻X2は、Y2が専門外で、適応判断を誤り不必要な切断術を実施した過失を根拠に、Y1・Y2に対して、X1に332万余円、X2に20万円の支払いを求め提訴した。
裁判所は、Y2には同院外科医に連絡しその指示・処置を仰ぐのを順当としたが、医師が医療行為を実施する場合、専門医として一般的に尽くすべき注意義務を基準としてなされ、非専門医であることにより軽減されないとした。そこで、H医師・M医師鑑定等に依拠して、四肢はなるべく温存する、肢切断の適応判断に係る一般外科専門医の当時の一般的水準として、①肢末梢の壊死②壊死していないが挫滅が高度で壊死に陥る場合③末梢部が挫滅はないが、中間部の挫滅による血行途絶で壊死する場合④ガス壊疽の発症ないし発症徴候がある場合⑤高度の化膿などで治癒が著しく遷延する場合⑥甚だしい変形性治癒 などと認定し、X1の創は②③に相当するとして、Y2医師が医療上の注意義務を懈怠して適応判断を誤ったとする主張を否定して請求棄却した(大阪地判昭和38・3・26)。
専門科目外の医療行為には、専門医の水準が要る!
(医療安全対策部会 宇田憲司)