医療過誤を主張する患者の未収金に関する問題  PDF

京都中央法律事務所弁護士 福山勝紀

2007年に大学卒業。京都弁護士会に2012年に登録。医療協議会PT等に所属している。協会医師賠償責任保険処理室会・医療事故案件調査委員会に参加し、数多くの会員医療機関の裁判等で活躍している。

第1 はじめに
医療機関の中には、一部負担金の未収金に関する問題を抱えておられるところも少なくないかと思います。当事務所も医療過誤を主張する患者の未収金に関する問題について、ご質問をいただくことも多くありますので、本コラムでは、その未収金の法律問題について少し触れたいと思います。

第2 未収金の時効について

民法170条1号は、「次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する…医師…の診療…に関する債権」と規定されており、診療報酬に関する時効について定めています。この条文からすれば、一部負担金については、3年間「行使」しないときは、時効によって消滅することになります。ここにいう「行使」とは、単に請求することではありません。裁判上の「請求」すなわち、裁判を起こすことまで必要になります。おそらく医療機関におかれては、請求書を出し、それでも支払いがない場合には、口頭や書面で支払うよう求めておられるところも多いと思います。
しかしながら、これらの請求では、法律上の「行使」には当たりませんので、原則として診療行為が終了してから3年間が経過すると、消滅時効が成立してしまいます。そうすると、原則として、一部負担金は請求できないことになってしまうのです。この点は注意して下さい。
もっとも、書面で一部負担金を支払うよう求めた場合には、最大6カ月まで時効を延ばすことができます。そのため、延長している期間内に裁判を起こせば、消滅時効の成立を防ぐことが可能です。弁護士から督促の書面を出すことによって、裁判されてしまうかもしれないと患者が懸念し、一部負担金を支払ってくるということもありますし、包括的に弁護士に債権回収を依頼いただくことも可能かと思います。

第3 民法改正との兼ね合い

現在、民法改正についての議論が行われていますが、改正民法案では、消滅時効について統一的な条文が置かれる予定になっています。
改正民法案では、権利者が権利を行使できることを知った時から5年間権利を行使しない時には消滅時効が成立するという旨を定めています。第2で述べた民法170条1号規定は無くなり、消滅時効は5年間に延長されることになるのです。いつ国会で可決されるかは分かりませんが、これまでよりは、未収金の回収が楽になるかもしれません。

第4 厚生局との関係

一部負担金の問題は、厚生局との関係でも問題になることがあるかと思います。特に医療機関にとって悩ましい問題は、当該患者が医療過誤だと主張している場合です。
この場合、一部負担金を請求することが、当該患者の被害感情を逆撫ですることになり、より問題を大きくしかねないため、一部負担金の支払いを免除せざるを得なかったというところもあるかもしれません。
しかしながら、このような取扱いは、厚生局から指導の対象になる可能性も否定できませんし、避けられるべきと思います。医療過誤の問題においては、医療機関が行った診療行為が正当(すなわち、過失がないもの)であったにもかかわらず、患者が被害感情を持つというケースも大いにあるからです。
原則として、一部負担金はいついかなる時も請求するようにして下さい。

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