理事長 垣田 さち子
改定率決定を受けて
診療報酬の2018年度改定率について、2017年12月18日、加藤勝信厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣が合意した。
財務省財政制度等審議会は11月29日、診療報酬は全体で「2%半ば以上のマイナス改定」、本体部分も「マイナス改定」が必要との建議をまとめた。当協会は診療報酬本体の大幅引き上げを求めて署名運動に取り組み、会員から寄せられた署名を厚生労働大臣宛に提出すると同時に、当局担当者への直接要請も実施した。さらに、総理大臣、財務大臣、中医協会長および委員、京都選出国会議員にも送付して要請した。
結果、改定率は本体プラス0・55%、薬価・材料価格マイナス1・74%、ネットでマイナス1・19%と決まった。本体がプラスとなり僅かでも前回改定率を上回ったのは、厚労省・中医協への会員署名提出をはじめとする保険医運動の成果である。
一方、薬価・材料価格の改定により生じた財源は全て本体改定に投入されるべきであった。財務省は建議の中で「薬価改定は本体の財源とはなり得ない」との考えを改めて示したが、診療側の経営努力により実勢価格が抑制されていることを無視した評価は許せない。
ましてや全体ではマイナス改定であり、国民負担が増えるかの如き報道は事実誤認だ。
財務省は建議の中で「国民負担の増加を抑制する観点からは、診療報酬を抑制していく必要がある」と主張した。改定率に関する報道を見ても、「医師の報酬上げ~国民負担の議論乏しく」(日経)等の報道がある。しかし、これらの主張には「診療報酬は健保法第63条に掲げられた『療養の給付』そのもの」であり、点数表は公的医療保険により現物給付される医療サービスの水準を担保するものだ、という基本的な考え方が欠如している。診療報酬が抑制され続けば、医療機関は新たな設備投資、雇用ができない。12月11日、社会保障審議会医療保険部会・医療部会がまとめた「18年度改定の基本方針」の中では、「今後の医療ニーズや技術革新を踏まえた、国民一人一人の状態に応じた安心・安全で質が高く効果的・効率的な医療」が謳われているが、どうやって対応せよというのか。
11月8日に公表された「第21回医療経済実態調査結果」によれば、16年度に損益率がマイナスとなった一般診療所の割合は25・7%で、2年前の17・8%から大きく増加。対前年度増減でのマイナスは一般診療所の55・3%と半数超を占めている。一般病院の損益率は、マイナス4・2%と過去3番目に悪い数値であり、損益率マイナスは58・1%に上り、その多くは民間病院である。
殆どの病院では病床の半数程度まで差額ベッドを設定しているが、差額徴収がなければ病院経営が成り立たないところまで追い詰められているのが現実だ。診療所も自由診療や自費徴収を伴うさまざまなサービスを手掛けるところが増えており、当協会には「混合診療に当たるか否か」の相談が後を絶たない。診療報酬を下げれば患者負担が減る、というのは実態を把握していない短絡的な考え方である。「保険で良い医療」が担保されなければ、患者の実質的な負担は増加する可能性もあるのだ。
社会保障の普遍性、公平性を重視すれば、診療報酬・介護報酬はもっと拡充すべきだ。個別の改定項目に対する評価は「現時点の骨子」や「中医協答申」を待ちたいが、政策誘導に用いることなく地域医療を守る現場の保険医の医療技術等を適切に評価することを強く望む。
2017年12月19日