12月9日付の日経新聞に「病床逼迫 柔軟な運用欠く」とする記事が掲載された。病院が一般診療を継続しながら新型コロナへの対応を両立させようとしていることが医療現場の疲弊の原因だとして「コロナに専念できず」と断じたものだ。日本は人口当たりの病床数が先進国の中で多く、感染者数は少ないのに医療現場に余裕がないのは、効率的でない医療資源配分と入院のハードルの低さが問題であるという。
しかし、構造的な問題は政府が進めてきた医療提供体制改革そのものではないか。医療費削減のために、病床削減、医師数抑制を強引に進めてきたことが、「医療現場の疲弊がピークに達しつつある」原因である。厚生労働省はコロナ禍の収束が見えないまま、地域医療構想の進捗が不十分であったからだと早々に断定し、やみくもに外来医療提供体制にまで踏み込もうしているのが現状だ。これらの真摯な検証が必要である。
医療経済研究機構の印南一路副所長が「感染症対策はもっと公立病院や公的病院が担う必要がある。(中略)」とコメントしているが、再編・統合に伴うデータ分析や関係者調整等を国が集中的に支援する「重点支援区域」の選定など、病床削減・再編統合を促す政策を厚労省は次々と打ち出している。感染症対応の要となるはずの公立・公的病院のリストラが現時点においても粛々と進められているのである。病床数や医師数を単なる数として扱おうとしているのが「効率」が意味するところであろう。
これを象徴的に表しているのが、「本当に必要な入院なのか」という見極めがされていないから病床が逼迫していると決めつけていることだ。新型コロナ感染症は診断時に軽症であっても急速に重症化することがあるが、記事では軽症の「予防的な入院」は非効率だと言わんばかりだ。国民皆保険制度で必要な人に必要な医療を提供するという制度のもと、国民の医療へのアクセスを保障しているからこそ、重症化を防いているという側面がある。それを失念してはならない。医療の質を重視すべきだと考える。
協会は、医療機関の負担軽減のためにも患者の感染への不安対応のためにも「公的発熱外来の設置」を求めてきた。これは「効率」ではなく命を救うための協働のためである。
新自由主義改革による医療体制への締め付けと、新型コロナ感染症の追い打ちで日本の医療体制の疲弊が限界にまで達しようとしていることは間違いない。これまでの医療費抑制に重きを置く国の政策方針を見直し、今こそ医療体制の拡充に舵を切るべきときである。
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