協会が参加する公衆衛生行政充実を求める京都市実行委員会は、ウィングス京都イベントホールにて11月1日に「京都市の公衆衛生行政の充実を求めるフォーラム」を開催。冒頭、実行委員長である渡邉賢治副理事長が実行委員会結成やこのフォーラムに至った経緯を説明。佛教大学教授の岡﨑祐司氏が「市民の権利としての公衆衛生の再生へ」と題して講演した。ネット視聴を含め、参加者は70人となった。
公衆衛生は住民のいのちと健康を守る砦
岡﨑氏は元大阪大学医学部教授で衛生学が専門の丸山博氏の言葉を引用し、「衛生は健康を衛り、衣食住と労働を衛り、資源とエネルギーを衛ること」と解説。言い換えれば基本的人権の確立とその拡大が、社会を退廃させない第一条件だとし、個人衛生では限界があるため社会の衛生、すなわち公衆衛生が必要不可欠だと述べた。
そのうえで、現在の課題として保健所の削減が保健所数と職員定数削減にとどまらず、保健所必置職種の実習受け入れも困難にしてきたと指摘する分析を紹介。推進されてきた地方行革の過程は、日本社会衰退の過程だと断じた。
コロナ禍で炙り出された保健所の人員不足や危機管理に対する対応能力の限界などの公衆衛生行政の問題は解決しなければいけない課題としつつも、一方で我々住民が保健所や公衆衛生を担う医師、保健師等、専門職をめぐる課題にどれだけ関心を持ってきたかと問いかけた。運動を担う側から関心を示し、より良い方向を目指して現場を支援するということを打ち出す必要があると強調した。
また、自らの健康を地域の住民共通の健康としてとらえ、共同で守る。公衆衛生、地域保健を住民の権利として求める。その中で保健所、行政、医療機関が使命を果たし、地方自治、国家がそれを支えるというような、重層的な仕組みが必要と述べた。
我々が、自分のいのち、健康、生活、仕事と自治体労働者の仕事を結び付けて考える必要があること。自治体職員からの仕事論、労働論の積極的提起も必要だとし、分断社会における住民の自覚こそが地方自治再生のカギだと締めくくった。
保健師「業務担当制」の弊害
続いて、京都市職員労働組合書記次長の福本えりか氏が、京都市役所で働く保健師への聞き取り調査の結果を報告。保健師の仕事において、個人から家族、家族から地域までを見る視点が重要であり、その重要な活動が各世帯への家庭訪問であったと説明。しかし、業務が増加する一方で相対的に保健師の人員が増えない中、この訪問活動がなかなか行えず、また地区担当制から業務担当制へと移行したことなどで担当する仕事が画一的になり、市民サービスとしての地域の健康づくりや新型コロナのような新興感染症の流行に迅速かつ的確に対応できないと、現状の課題を指摘した。
今の京都市に「公衆衛生」ない?
また、保健師、看護師、開業医などがリレートークで登壇。新型コロナの流行下における保健所の現場の状況や専門家としての役割、また以前の保健所の姿、医療現場における保健所医師、保健師とのつながりや連携状況などが報告された。京都市の機構改革とともに保健師と住民との距離がどんどん広がっている実情や、特に新型コロナでは保健師の「便利使い」だとする報告があった一方で、京都市と同じく保健所が集約化された名古屋では、保健師は地区担当制を継続して敷いており、支所長は医師か歯科医師で、この体制の中、新型コロナへの対応では混乱はなかったことなどが報告された。
質疑応答では、保健師の時間外業務の状況や新型コロナ対応における役割、保健師に「公衆衛生」の意識があるのか、などの質問が出された。これを受け、登壇した保健師があらためて、今の仕事の状況を話すとともに、残念ながら今の保健師は「公衆衛生」を感じることがないのではないか。京都市に「公衆衛生」があるのかと問われれば、非常に疑問だと回答した。
最後に実行委員会は、このフォーラムを踏まえ京都市に提言を行う予定であるとし、引き続き協力をお願いして閉会した。