中心静脈栄養管理中に点滴針から感染し敗血症死したと訴えられた事例
(70歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
患者は、糖尿病・狭心症・小腸広範切除・C型慢性肝炎・慢性腎不全・尿路感染症等の既往症があり、要介護度5であった。A医療機関に入院中は、経中心静脈高カロリー輸液を受け、退院に際し同医療機関から依頼され、本件医療機関は在宅中心静脈栄養法管理のため、訪問診療を開始した。A医療機関から、2週間に1回のポートの静注針を交換することを指示された。訪問診療開始8日後に右前胸部のポート針の交換を行い、さらにその約2週間後に2回目の針交換を実施した。その翌日、訪問看護師から、右肩から右胸部に浮腫を認めるとの電話報告があったため、A医療機関への救急受診を勧め、入院となった。その後、患者は胆嚢炎を併発して敗血症となり、約3カ月後に死亡した。
患者側は、医療機関はポート等から感染を起こさないように注意することを怠ったとして、弁護士を介して賠償請求した。しかし、医療機関側が過誤を認めなかったので、その後訴訟を申し立てた。
医療機関側としては、針交換は通常の医療行為であり、敗血症はポートからの漏れがその原因とは考え難く、漏れの予防も不能であったとして無責を主張。また、ポート穿刺部の逸脱が原因で胆嚢炎を引き起こしたとは考えられず、因果関係を否定した。なお、死因は患者の原疾患である糖尿病やC型肝炎等による免疫不全と主張した。
紛争発生から解決まで約3年3カ月間要した。
〈問題点〉
A医療機関に入院後も、ポートはそのまま留置し、その後も使用していたが、感染の兆候は認められていない。したがって敗血症の原因がその部位からの感染とは考え難く、患者側の一方的な誤解と推測される。因果関係が認められない以上は、無責と判断せざるを得ない。さらに、手技等に関しても、本件医療機関に問題はなく、A医療機関においても通常の医療行為が実施されたものと推測される。なお、死因の厳密な特定は解剖をしていないことから困難であった。訴訟後も医療機関側は、医療過誤が認められないことを訴え続けたが、裁判所は低額での和解を勧告してきた。医療機関側は当初は、和解を拒否したが、和解勧告額がさらに引き下げられたために、早期解決の手段として和解を了承した。本来、医療過誤が認められない場合は、判決を待つことが妥当と考えられることが多い。裁判所は結審後に和解勧告をしてくることが多々ある。裁判所が和解勧告をしてきたからと言って必ずそれに応じなければならないことはないが、和解金の額とそれを算定した裁判所の理由をみて、本件に関わる裁判所の心証を考える必要がある。
〈結果〉
裁判所の当初の和解勧告を下回る額で和解した。なお、和解額は患者側からの訴額の約70分の1であった。