感染症指定医療機関としてのCOVID-19への対応と今後の課題
新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、患者のいのち・健康と地域医療を守ろうと地域の医療者が奮闘している。その実態を聞きたいと、今回は発熱外来を設置した京都山城総合医療センターの中井一郎院長に寄稿いただいた。
当院は京都府では最南端に位置する第二種感染症指定医療機関です。感染病床は10床で、今回のCOVID-19の流行が最初の活用の場となりました。今回の感染拡大に対する当院の対応と、難渋した点および今後の課題と対応策を記します。
感染病棟の受入状況
3月19日最初の患者の受け入れ以来、10月5日の現時点までの入院患者数は63人です。山城南医療圏を中心に山城北医療圏など他地域からの患者も受け入れました。最初の患者は高齢・基礎疾患ありと重症化が危惧され、人工呼吸器も準備していましたが、幸い酸素投与・アビガン服用で回復されました。
主な治療は、酸素療法:10人、アビガン内服:19人、オルベスコ吸入:18人でした。幸いにして全員無事回復され、超重症化症例ならびに死亡者はおられません。
帰国者・接触者外来設置に非難も
これまでの受診者は584人で、うち22人(3・8%)が陽性と判定されました。当初は当院と保健所のみで検査が実施されていましたが、現在では近隣の病院・診療所も参画していただいています。敷地内のプレハブで検体採取を実施していましたが、当院はJR木津駅に隣接しており、周辺からの非難の声もあり苦慮致しました。
疑似感染症例は増加傾向
当院では独自の問診によるスコアリングを導入し、救急を含む受診者の要検査症例に抗原検査・PCR検査を実施しています。入院の必要な疑似感染者は個室管理とフルPPEで対処しています。
今まで入院患者には陽性者は出ませんでしたが、疑似感染症例は増加傾向にあります。また、感染リスクが比較的高いとされる手術・内視鏡・嚥下訓練などの対象症例は積極的に検査を実施しております。
収益減少と職員の疲弊が大きな問題
受診控えなどによる病院収益の減少は顕著であり、今後の運営に不安が残ります。コロナ患者を診ている危険な病院として根拠のない風評に困惑しました。長期にわたる職員の心理的疲弊も大きな問題です。
感染防御のための物品、特にN95マスク・PPE・フェイスシールド・手袋などは常に品薄であり、貴重品として管理しています。
当地域への検査センター設置を切望
今後も当医療圏での感染者、特に中等症患者を中心に入院受け入れを継続する方針です。冬季に予測されるインフルエンザとの同時流行に備え(現在は抗原検査と簡易PCR検査のみです)、両者を含む13種の感染症検査が同時に可能な装置を導入予定です。
ICU・透析室・産婦人科病棟には専用隔離スペースを設営しました。第二波の収まらないまま複数ウイルスの同時流行が予測されます。今後の対策として最も必要なのは、一般診療と熱発者を分離することと思われます。当地域にも検査センターが設置されることを切望しております。
将来の医療熟考する機会に
最初の患者受け入れ要請の際、緊急会議を開催しましたが、幹部および感染関連部署の誰一人反対する職員はなく、COVIDとの戦闘開始となりました。いまだCOVIDの正体がわからない時期に自身の危険もかえりみず医療・看護をしてくれた職員に敬意を表します。また、行動自粛を遵守してくれた全職員に感謝いたします。当院の奮闘を理解していただいている三沢所長をはじめ、山城南保健所の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。当院は今後も京都府南部の拠点病院として、その責務を全うしていきたいと考えております。
私論ではございますが、コロナにより時の流れが加速し、一気に5年程過ぎた感があります。どうしても必要な医療・将来の医療とは何か、今が熟考する良い機会と考えております。
(10月5日記載)
京都山城総合医療センター
院長 中井 一郎
〈プロフィール〉
1980年・京都府立医大卒業、
外科医師/2004年・現病院着任/2013年より現職、京都府立医大特任教授、全国国保診療施設協議会理事、同京都支部副会長/全国自治体病院前理事、同前京都支部長