コロナ禍で輸出規制に耐えられる食料自給率が不可欠 TPPネットで鈴木東大教授が講演  PDF

 TPP反対京都ネットは9月1日、公開講演会を開催。鈴木宣弘東大教授が「コロナ禍が炙り出す食の脆弱性と処方箋~ショック・ドクトリンは許されない~」について、オンラインで講演。47人が参加した。
オンラインで講演する鈴木氏

 新型肺炎の世界的蔓延で物流が寸断され、人の移動も停止し、それが食料生産・供給を減少。買い急ぎや輸出規制につながり、それらによる一層の価格高騰が起きて食料危機になることが懸念される(FAO=国際連合食糧農業機関によれば3~6月に19カ国が輸出制限)。日本の食料自給率は37%で、輸出規制に耐えられるレベルでない。
 鈴木氏は、今行うべきは過度の貿易自由化に歯止めをかけ、各国が自給率向上政策を強化することだが、FAO・WHO・WTOの共同声明は、危機の原因が貿易自由化なのに解決策はいっそうの貿易自由化を求めるもので論理破綻も甚だしいと批判。一部の利益のために農民、市民、国民が食いものにされる経済社会構造から脱却しなくてはならないと強調した。
 日本の貿易自由化の現状について、TPPで米国に日本が譲った農と食の譲歩内容が米国抜きのTPP11でそのまま譲ってしまっている。当然、日米FTAでも要求されるし、EUとの協定でTPP以上のものを譲ってしまった。TPPであれだけ大騒ぎをしたのに、すでにそれ以上のものになっている状況を重く受け止めないといけないとした。日米協定を日本はウインウインだと言っているが、自動車で何も取れず、農産物では譲らされ、ただ失うだけのものでトランプ氏の選挙対策のために一生懸命貢いでいる構造だと評した。
 日米交渉でまず決まるのがBSE(牛海綿状脳症)月齢制限撤廃と防カビ剤表示。BSEに対応した米国産牛の月齢制限は2019年5月に撤廃された。日本では収穫後に防カビ剤などの農薬は禁止だが、1977年に自動車輸出を制限すると脅されて米国から輸入するものには「食品添加物」として認めている。この表示そのものの撤廃が求められている。

危険な食品が選択的に日本へ!
国民が声をあげないと止められない

 牛飼育時のエストロゲンなど成長ホルモン投与は国内では認可されていないが、輸入は検査なしのザルとなっている。オーストラリアは禁輸しているEU向けには投与せず、日本を選択的対応の標的としている。米国ではこの「ホルモン」牛肉が敬遠されだし、乳製品への投与についても消費者運動により締め出されつつあるが、これが選択的に日本に向けてきている。また、米国の穀物農家は日本に送る小麦には除草剤グリホサートを雑草ではなく麦に直接散布し、日本で売られているほとんどの食パンからグリホサートが検出されている。消費者が拒めば、危険なものは排除できるが、日本はなぜそれができず、世界中から危険な食品の標的とされるのか、それは消費者・国民の声が小さいからだと訴えた。
 米国は競争力があるから輸出国になっているのではない。多い年では穀物輸出補助だけで1兆円も使う。コストは高くても自給は当たり前、いかに増産して世界をコントロールするか、という徹底した食料戦略で輸出国になっている。「日本=過保護で衰退、欧米=競争で発展」はむしろ逆。日本の農業が過保護だから、TPPで競争にさらせば強くなって輸出産業になるというのは前提条件が間違い。コロナショックを機に食料自給率を直視する必要がある。日本は米国の言いなりになっている鬱憤をアジアにぶつける「加害者」になっており、互恵的で柔軟な経済連携ルールをつくっていかねばならないとした。

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