2021年3月からマイナンバーカード(以下MNC)と被保険者証によるオンライン資格確認が始まる。20年5月15日に成立した健保法等一部改正法により導入が定められた。導入に向けて医療情報化支援基金が創設され、顔認証付きカードリーダーは無償提供。その他でも費用補助がなされることになった(表)。8月7日から顔認証付きカードリーダーの申込受付が始まっていることもあり、会員から問い合わせがあるため解説したい。
オンライン資格確認の導入は義務ではない
オンライン……と聞くと、08年のオンライン請求義務化問題を思い起こす会員もおられると思う。今回のオンライン資格確認は患者にとっても医療機関にとっても義務化ではない。患者は21年3月以降も従来通り被保険者証で受診できる。
オンライン資格確認を導入せず、従来通り被保険者証を初診時と月の最初の再診日に窓口で確認する方法で、医療機関に何らペナルティー、不利益は課されない。
導入にはオンライン請求の回線を利用
オンライン資格確認を導入するためには、オンライン請求の回線を使用する必要がある。オンライン資格確認のために院外ネットワークを敷設し、そのネットワークをオンライン請求と共用する場合の初期費用は補助金の対象となる。
カードリーダー導入は顔認証付きのみ対象
顔認証付きカードリーダーは8月7日以降、医療機関からの申込みに基づき無償配布される(支払基金が一括調達)。顔認証付きカードリーダーは3社(富士通マーケティング、パナソニック・システムソリューションズ・ジャパン、アルメックス)、3製品が用意されている。カードリーダーの提供を受けたにもかかわらず、結果としてオンライン資格確認を導入しなかった場合、カードリーダーの費用相当額の返還が求められる。
これに加え、オンライン請求の回線費用や、ソフトウェア・ 機器の導入、ネットワーク環境の整備、レセコン等の既存システムの改修等に係る費用はオンライン資格確認関係の補助金の対象となり、32・1万円を上限に補助される(事業額42・9万円を上限として、その4分の3を補助)。適否については表を参照されたい。
なお、顔認証付きカードリーダーを導入せず、汎用カードリーダーや被保険者証だけのオンライン資格確認を導入する場合は補助金の対象とならない。
MNCは預からない
MNCによるオンライン資格確認を導入する場合、顔認証付きカードリーダーを設置する。医療機関窓口ではMNCを預からない。
ただし、加齢等で容姿が変わった、券面がかすれている等の理由で顔認証ができなかった場合、患者が顔認証ではなく暗証番号認証を選択して入力を間違えた場合等は、窓口で確認モードを切り替えて当該被保険者本人であることを目視確認する必要が出てくる。
また、個人情報保護の観点から、患者本人がカードリーダーにカードを置く。被保険者資格の確認はマイナンバーではなく、MNCのICチップ内の利用者証明用電子証明書を利用しているので、職員はMNCに記載してあるマイナンバーを書き留めたり、保管したりしてはならない。
なお、高齢者等が操作の代行を求めた場合どうするのか、患者が院内で紛失したと訴えた場合はどうするのか等、対応に苦慮する場面も出てくる可能性がある。
MNCによるオンライン資格確認は受診ごとの確認が前提?
協会が9月25日に厚労省保険局保険データ企画室に確認したところ、MNCと被保険者証にオンライン資格確認を導入した場合は、受診の都度、確認の実施を前提に議論が進められているとのことである。従来、月初めの受診時と被保険者証の変更時に確認すればよい慣例が変わることになる。導入した医療機関ではMNCによる確認が進まなければ被保険者証により毎回資格を確認する必要がある。
患者、医療機関にメリットがある?
MNCによるオンライン資格確認は、マイナポイントと同様に、MNCを全国民に普及させるための施策だ。それを国民・患者、医療機関の負担で普及させようとする面がある。
MNCでオンライン資格確認をした場合の医療機関のメリットは、資格情報を電子カルテ等のシステムに取込むことができるだけではないか。
また、患者がMNCをオンライン資格確認で被保険者証代わりに使うためには、患者自身がマイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)で登録をすることが必要だ。「自身の診療情報がマイナンバーと紐づけられることはない」と政府は広報しているが、この不安は完全には払拭されていない。厚生労働省が18年7月にまとめた「医療等分野の情報連携基盤となる全国的なネットワークやサービスの構築に向けた工程表」では、将来的に医療機関の電子カルテ、レセコンから集めた「保健医療記録」を「共有システム」に集約する「全国保健医療情報ネットワーク」の姿が示されているからだ。
8月2日の総会アンケートでは、導入しないが約4割、決めかねているが約3割で、導入したいとの回答は約1割にとどまった。「セキュリティ上の問題」に対する危惧も指摘されている。慎重な対応が必要と考えている。
(表)オンライン資格確認関係補助適否一覧
現物提供の対象台数(病院は1~3台、診療所・薬局は1台) 顔認証付きカードリーダー システム等改修費用
支払基金が手配(第2の2対象) 1/2または3/4補助の対象(第2の1(2)対象) 1/2または3/4補助の対象(第2の1(2)対象)
9万円(税抜)以下の顔認証付きカードリーダーを支払基金に注文 ○ ― ○
9万円(税抜)以下の顔認証付きカードリーダーを全額自己負担で購入 ― ○ ○
9万円(税抜)を超える顔認証付きカードリーダーを支払基金に注文 × × ○
9万円(税抜)を超える顔認証付きカードリーダーを全額自己負担で購入 ― × ○
(顔認証付きカードリーダーの導入なし) ― ― ×
現物提供の対象台数を超える台数(病院は4台目以降、診療所・薬局は2台目以降) 顔認証付きカードリーダー 支払基金が手配(第2の2対象) 1/2または3/4補助の対象(第2の1(2)対象)
9万円(税抜)以下の顔認証付きカードリーダーを全額自己負担で購入 ― ○
9万円(税抜)を超える顔認証付きカードリーダーを全額自己負担で購入 ― ×