医師が選んだ医事紛争事例 125  PDF

リハビリ用牽引器の故障により頸椎症が悪化?

(60歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は頚椎症、肩関節周囲炎のため、本件医療機関で頚椎間欠牽引(牽引力11㎏、10分間)を受けた。牽引終了を知らせるブザーが鳴らずに牽引が終了した。物理療法助手が患者に状態を確認したが特に訴えもなかったため、そのまま帰宅させた。しかし、数時間後に患者から首が少し痛くなり、手の痺れ等が発症し、気分が悪くなったと医療機関に連絡があった。
 患者は、牽引終了時に牽引機器が急激に肩に落ちてくるように止まったと感じた旨の説明をした。以前に比べて手の痺れがひどくなり、仕事が思うようにできなくなったとして、休業補償を請求してきた。
 医療機関は院内事故調査会で以下の点について確認した。
 ①機器メーカーの点検によれば故障個所は終了ブザーのみで、頸椎の牽引装置に不具合はなかった②機器の構造上、通常の使用方法で頸部に衝撃を与えることはない③ブザーが鳴らなかったことにより、患者が牽引機の停止を衝撃と感じた可能性がある④MRI画像に慢性的な変性病変はあったが、急性的な傷害は認められなかった⑤牽引機がブザー音なく停止したことと患者の訴える手の痺れ等との因果関係は合理的に説明できない⑥牽引機は使用してから20年以上経過しているが、過去に故障がなかったので点検はしていなかった―。
 紛争発生から解決まで約6年6カ月間要した。
〈問題点〉
 患者の身体に頸椎捻挫様の何らかの傷害が生じたとは考えにくい。牽引機の故障はブザーのみで他の機能は正常であり、通常の使用状況であれば、頸部への衝撃は生じようがないため、患者の訴える痺れ等との因果関係は認め難かった。また、事故後の診察・検査でも急性的な傷害の発生や既病変の悪化は認められていない。さらに、医療機関側にはブザーが故障して鳴らなかった場合に、患者に傷害を与えることがあり得るとは予測し得ず、過失は問えない。
 一方で、医療機器は通常の使用方法では不具合がそう発生するものではないが、特に手術機器等で代替品がない場合は、消毒開始前に再度の点検をして確認しておく必要がある。例えば、全身麻酔をして処置部を切開した後で、手術用顕微鏡のライトが点灯せず、手術中止となった事例では、再実施を拒否され、慰謝料等を請求されたこともあり、要注意である。
〈結果〉
 医療機関側は医療過誤がないことを患者側に伝えたところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。

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