病床規制を盛り込んだ医療法改正が1985年に行われ、都道府県医療計画による規制が1989年度からスタートした。その結果、1990年には全国で153万あった一般病床は2015年には133万床に減っている。また1994年に保健所法が地域保健法に改められ、保健所の統廃合が進んだ。1992年に852カ所あった保健所は、2020年には469カ所と激減した。京都市などの政令指定都市では各区1カ所ずつあった保健所が市全体で1カ所になっている。
やせ細った医療福祉の現場に襲い掛かったのが新型コロナウイルス流行であった。4月中旬には、新型コロナに感染して入院や療養が必要な患者数が急増し対応できる病床が不足した。PCR検査を受けることもできず、受け入れ先も見つからず自宅で亡くなる患者のことがマスコミで話題となった。
6月下旬に保健所長と話をする機会があった。
「今度の新型コロナのことでは、職員が総出で大変です」
「保健所の職員は減らされていますものね」
「当初はPCR検査の基準が、発熱と呼吸器症状があって湖北省への渡航歴がある方に限られていました。当時、PCR検査をお断りしてしまいご迷惑をお掛けしました」
「新型コロナ疑い例の定義も当初とは変更になり、現場が振り回されているのですね。特に保健所は行政機関なので、現場でできる判断が限られていますから」
「そうなのです。最近は検査に少し余裕が出てきました。疑いの方があれば受診調整をしますので遠慮なく言って下さい」
「はい、ありがとうございます」
「近く、唾液検体によるPCR検査が認められ、協力医療機関では検査ができるようになります。一時期は保健所の職員の疲弊は頂点に達していました」
私も事業所産業医をしていて、労働者の長時間勤務やメンタルヘルスでの面接をしている。労働者のメンタルヘルス相談の大変さを知っているつもりである。所長も新型コロナ対策だけでなく、職員のメンタル対策もしなければならず疲れておられるのだと感じた。
「先生が、保険医新聞に書かれたエッセイですが、マスクなどの標準的予防策をされていたら、先生は濃厚接触者にはなりませんよ」
濃厚接触者の定義も途中で変更となり、所長のおっしゃる通りである。しかし、定義に当てはまらなければ、目の前のコロナ患者から、絶対に感染しないという保証はない。
「先日は、保健所でかかりつけ医への受診を勧められたと言って、コロナ疑いの患者が診察室に入って来られたのにはびっくりでした。3日前から前日まで37・5℃以上の発熱があったそうなのです」
「保健所で振り分けているのですが、かかりつけ医でまず診てほしい事例もあるのです」
「それは結構なのですが、患者さんには先ず電話してから、かかりつけ医に行くように伝えて下さい。診察時間や場所の工夫をしますから」
「患者さんには、かかりつけ医には電話してから行くように伝えているのですが。再度、職員に徹底します」
保健所職員も開業医もともに協力して新型コロナに対処していかなければならない。お互いに相手の身になって考えることで意見が一致した。新型コロナは2類感染症に指定されている。たとえPCR検査ですでに陰性と分かっていても検査した全例を疑似例として保健所に届ける必要がある。保健所は、その事務処理にも時間を費やしている。
大学や検査センターなどPCR検査のできる施設はたくさんあったはずである。最初からこれらの施設を動員できなかったのだろうか。
指定感染症に対する行政検査は保健所が要であるが、少しでも行政検査実施数を増やすことはできなかったのかと考えてしまう。第2波に備えるためにも、日本の公衆衛生行政を見直すことが必要である。
編集注記 本紙3075号掲載の診察室よもやま話第17回「新型コロナ」の6段目、左から8行目の「先生が濃厚接触者となったため休診された診療所がある」という記載について、事実関係を確認したところ、受診した患者さんが翌日陽性と判明したため、当該医療機関が念のため自ら休診された事例であり、誤解を招く表記でした。