医師が選んだ医事紛争事例121  PDF

頸部トリガーポイント注射による副作用で…

(20歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は筋緊張性頚部痛等で来院。頸椎レントゲン検査により頸椎に異常所見は認められず、筋・筋膜性の頚部痛と診断された。右僧帽筋部に圧痛があり痛みが慢性化していたため、早期の寛解を得る目的で、消炎鎮痛剤の処方投与と局所麻酔剤リドカインとステロイド剤を混合してトリガーポイント注射が行われた。なお、副作用として次回の月経が不順になる可能性の説明があり、患者の了解は得られていた。注射直後に患者はふらつきを訴えたのでベッドに寝かせて血圧を測定したところ、BP94/60であったが、5分後にはBP118/66に回復した。約20分経過したところで突然両脚に痙攣が認められたので、酸素マスクを装着するとともに救急車を手配して医師も同乗しA医療機関へ搬送した。救急隊の評価およびA医療機関での診断名は過換気症候群であった。
 患者側はA医療機関の医療費を請求してきた。
 医療機関側では、頸部トリガーポイント注射によるふらつきは、経験的には10~15分で改善が認められるが、今回は副作用として月経不順のみ説明していたので、ふらつきが生じたことに患者が動揺してパニック状態になったと推測された。なお、過換気症候群についての説明はしていなかった。
 紛争発生から解決まで約3カ月間要した。
〈問題点〉
 以下の3点を検討した結果、医療過誤は認められなかった。
 ①トリガーポイントを施行する際に、ふらつきが生じる可能性まで説明する義務があったか。
 ②4カ所にリドカイン(1・0%・0・5%)を合計18 mL使用。90~180㎎の範囲となるが、適量であったか。用量は通常、成人1回200㎎が基準最高容量とされ、1時間以内では300㎎とされる。
 ③過換気症候群発症初期に必要な処置は、呼吸を緩徐にさせたり、袋で呼気を集めて再呼気(ペーパーバック法)させたりして血中CO2濃度の増加を要し、O2投与に問題はない。しかし、過換気症候群と気づかず酸素マスクを装着したことが過誤と判断されるか。
〈結果〉
 医療機関側は調査検討を行い、その結果として医療過誤のない旨を患者側に伝えたところ、患者側は納得した。

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