医師が選んだ医事紛争事例119  PDF

採血時の神経損傷
減らすには事前の研修が大切

(50歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、頚部リンパ節炎で通院していた経緯があり、内科で右肘正中皮静脈から、21G針で採血した。その際、患者から痛みや痺れ等の訴えはなかった。しかし、その1カ月後、患者は右第4・5指の痺れを訴えて、同院の整形外科に外来受診した。
 患者は、採血を実施した看護師には言わなかったが、1カ月前の採血時に通常以上の痛みを感じていた。毎日、断続的に痛みや痺れが生じて苦痛を感じており、これ以上医療費の支払いをしたくないとの意向を示した。
 医療機関側としては、看護師の手技に過失が認められず、注射針についても太さに問題はなかったとした。なお、刺入角度や深度、回数については実施した看護師の記憶になかったが、記憶がないということは、通常通りと推測した。病院側は事故調査の内容を詳細に患者側に伝え、理解を求めた。
 紛争発生から解決まで約1年間要した。
〈問題点〉
 まず、採血と神経損傷との因果関係については、患者は採血当日から痛みを感じたと後に述べているが、詳細を確認すると痛みはいったん軽度になり、またその後に増悪するなど、採血との因果関係がないと思われるような経過を辿っている。
 医療機関側も、採血穿刺以外の要因が考えられるとのことだった。
 次に、神経損傷が採血穿刺によるものとしても、看護師に特段の不注意は認められない。看護師の事故当日の記憶はないが、医療機関側の主張する、記憶がないということは、通常と違うことはなかったはずとの推測は信用できると判断された。
 一般的に言っても、採血等による神経損傷に関する医事紛争は毎年のように発生しているが、事後対応として上述したような点を確認して、安易に過誤を認めないことが肝要である。また、採血時の神経損傷を減らすには、事前の研修が大切だ。『標準採血法ガイドライン』第3版(日本臨床検査標準協議会〈JCCLS〉)の活用をおすすめする。
〈結果〉
 患者側に調査結果を詳細に伝えたところ、クレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。

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