目的
新型コロナウイルス感染症の拡大による受診抑制、医業収益悪化の実態について把握、検証すること。
調査方法
方法:調査票を郵送し、郵送、ファクシミリまたはメールで回収
対象:京都府内の病院(160病院)
回答:63病院(回収率:39%)
期間:4月14日~27日
まとめ
2020(令和2)年3月の入院患者数、外来患者数、医業収益について前年同月(2019年3月)との比較を調査。京都府内の約4割の病院が回答を寄せた。
すでに3月の時点で、回答のあった府内の約7割の病院で入院患者数が減少しており、入院患者数が10%以上減少した病院が5病院(1割弱)あった。8割近くの病院で外来患者数が減少し、外来患者数が10%以上減少した病院が20病院(約3割)あった。
3月の医業収益(全体)は、約4割の病院で悪化し、10%以上悪化した病院が6病院(約1割)あった。入院・外来別に見ると、入院は約4割の病院で収益が悪化し、10%以上悪化した病院が3病院(約0.5割)あった。外来は5割を超える病院で収益が悪化し、10%以上悪化した病院が12病院(約2割)あった。
自由意見では、不足する医療物資の供給を求める声や、4月以降さらに医業経営が悪化することへの懸念、新型コロナウイルス感染症の適切な診療体制の構築と医療従事者等への補償を求める意見が多く寄せられた他、地域包括ケアシステムが破綻している報告も寄せられた。
以上のことから、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、3月の時点で外来を中心にすでに受診抑制が発生しており、医業経営にも影響が出始めていることが分かった。本来であればきちんとした受診が必要であるにもかかわらず受診できない(しないまたは診療できない)患者の増加と、それによる医業収入の落ち込みが、地域における医療機能の維持を困難にさせ、さらに医療資材の不足や医療従事者の確保困難、入院から在宅への患者の流れの停滞により、医療崩壊や地域包括ケアシステムの破綻を招く可能性が示唆された。
調査結果
〈回答病院の概要〉
1.回答病院の病床種別(複数回答)
回答を寄せた病院は、一般病床を保有する病院が最も多く52病院、83%。次いで療養病床の保有が多かった(20病院、32%)。結核病床の保有は4病院(6%)、感染病床の保有は3病院(5%)であった。その他は、すべて介護医療院であった(図1)。
2.回答病院の病床数
回答を寄せた病院が保有する病床は、一般病床が最も多く9,625床(67.8%)、次いで精神病床が多かった(1,972床、13.9%)。結核病床は46床(0.3%)、感染病床は22床(0.2%)であった(図2)。
〈医業収益に関して〉
3.2020年3月の入院患者数(前年同月比)
2020年3月の入院患者数が前年同月と比べて、90%未満となった病院は5病院(7.9%)、90%以上95%未満となった病院は11病院(17.5%)であった。前年同月と比べて低下したのは、実に43病院、68.3%に上った(図3)。
4.2020年3月の外来患者数(前年同月比)
2020年3月の外来患者数が前年同月と比べて、90%未満となった病院は20病院(31.7%)、90%以上95%未満となった病院は16病院(25.4%)であった。前年同月と比べて低下したのは、実に49病院、77.8%に上り、患者数の減少は入院よりも外来で大きくなった(図4)。
5.2020年3月の医業収益(全体)(前年同月比)
2020年3月の医業収益(全体)が前年同月と比べて、10%以上低下した病院は6病院(9.5%)、5%以上10%未満の低下となった病院は8病院(12.7%)であった。前年同月と比べて低下したのは、25病院、39.7%に上った(図5)。
6.2020年3月の医業収益(入院)(前年同月比)
2020年3月の医業収益(入院)が前年同月と比べて、10%以上低下した病院は3病院(4.8%)、5%以上10%未満の低下となった病院は8病院(12.7%)であった。前年同月と比べて低下したのは、25病院、39.7%に上った(図6)。
7.2020年3月の医業収益(外来)(前年同月比)
2020年3月の医業収益(外来)が前年同月と比べて、10%以上低下した病院は12病院(19.0%)、5%以上10%未満の低下となった病院は9病院(14.3%)であった。前年同月と比べて低下したのは、34病院、54%に上り、入院収益よりも外来収益の方が悪化している病院が多かった(図7)。
自由意見・要望等
(医療物資の不足)15病院
・不足する医療資源(マスク、防護服等)を早急に確保・配分願いたい。
・医療物品不足という情報が1カ月前より多くなってきている(N95マスク、サージカルマスクは当然だが、長袖ガウン、ペーパータオル等も今後厳しそう)。今週に入ってから人工鼻が不足気味との情報もあるので、呼吸器管理の患者も比較的多いため、今後の入庫状況が心配。
・マスク、手袋等の医療材料の確保に苦慮しており、診療体制に見直しが必要になってくると思われる。
・マスクやフェイスシールド、ガウンなどもぎりぎりの状況で、職員の誰かにでも発症すれば一気に崩れてしまいそうなところ。ただ、発症した場合のシミュレーションはしており、大きな混乱もなく経過している。面会制限をしているが、当院のような病院ではご家族がひと目会いたいと言われることも多く、テレビ電話等何かしら対応できればと考えている。他
(医業経営への影響)12病院
・電話再診や長期投与の影響により外来収益の落ち込みが甚だしい。これらの救済措置を、今後長期化するなら検討していただきたい。
・4月に入り、入院・外来患者とも大幅に減少、収益が大きく落ち込んでいる。この状況は続くと見込まれ、経営が極めて厳しくなると思われる。
・感染症対策の費用が増大。府の補助金活用対象、使用方法が分かりづらい。入院・外来ともに患者減。非常に厳しい。
・経営面での補償を国にお願いしたい。
・医療機関がやむなく外来停止等医療活動を縮小した場合の公的な補償が必要。
・緊急事態宣言前から地域の特別養護老人ホームの新規受け入れがストップされており、病院からの退院先の多くが事実上閉鎖された。地域包括ケアシステムの流れがストップしている状態であり、地域包括ケア病床の算定日数上限を超える患者が出たり、一般病床の平均在院日数要件の維持が困難になってきている。しかし施設基準等の特例は主としてコロナ患者を受け入れた場合に限られてしまっている。他
(新型コロナウイルス感染症の診療体制)6病院
・地域ごとに基幹病院での発熱外来の実施をお願いしたい。
・(厚生労働省に対して)職員の時差出勤、在宅ワークの導入など他業種が行っている感染対策が実施できない。医療崩壊が懸念されている中、明確な基準の緩和を発出していただきたい。
・コロナ感染者を受け入れている施設として重症者、中等者を診ているが、発熱外来も協力する医療機関が全く少なくて、現場は悲鳴を上げています。発熱外来だけでもシェアできるようしてほしい。
・感染患者を受け入れるための病室、医療機器も充実しておらず受入は困難と考える。
・府の要請により帰国者・接触者外来を設置したが、対応するスタッフや感染防御のための資材不足、また救急室やCT装置の共有による消毒対応への時間などにより、本来の救急受入業務に支障をきたしている。他
(医療従事者への負担、補償)6病院
・新型コロナウイルス感染症患者の治療、受け入れには専属的に対応する医師、看護師が必要だが、医師不足により対応できる医師の確保が困難な状況。
・現場のスタッフが疲弊している。他
(情報提供等)2病院
・感染防止に係る情報提供、診療報酬制度による情報のタイムリーな提供。
・情報が遅い。
※調査にご協力いただいた病院には、この場を借りてお礼申し上げます。
図1 回答病院の病床種別
図2 回答病院の病床数
図3 入院患者数
図4 外来患者数
図5 医業収益(全体)
図6 医業収益(入院)
図7 医業収益(外来)