協会は、医療従事者を含め医療の需給に関わる全国民の幸せ向上に資する診療実施のあり方を求めている。医師法第19条第1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない」とあり、国民の医療への接近を容易となし、生命・身体(健康)など国民の権利の充実・向上へと大いに貢献した。しかし、同法は、1948年に制定され、以後医療を取り巻く状況の変化、すなわち、医療技術の向上、診療の求めの増加、適用すべき医療提供体制の変化などから、医師・医療従事者にも疲弊が生じたなど働き方改革への調整をも必要としており、医療従事者へもこの権利実現の必要を主張するものである。
そこで、最近の提訴事例の紹介と厚労省通知の要点を述べる。
Xは、中国で腎臓移植術を受け、2015年2月帰国し、今後のフォローアップにA医師に紹介されY医科大学の附属病院腎移植外来担当B医師を受診した。しかし、Xは診療拒否を受けたとしてB医師の不法行為(Yの使用者責任)・Yの債務不履行責任を理由に損害賠償271万余円をYに求め提訴した。静岡地裁および東京高裁(判決19年5月16日)は請求棄却した。その理由は、以下の通りである。(1)Xは初診時、生命・身体に差し迫った危険のない状態で、紹介先病院のAに内服薬の増量の必要性が返答され、同月3日判明したサイトメガロウイルス値も連絡された。(2)腎移植後のフォローアップは、在住県においても他医療機関に通院・受療が可能であった。(3)国際移植学会は08年5月にイスタンブール宣言で、渡航移植への条件付制限と臓器取引と移植ツーリズム禁止をした。同会員B医師および公共性の高いY大学は、その旨を遵守し、疑わしい患者の診療は控えるとしたが、その目的には正当性があり、法第19条第1項の趣旨からも、応召義務に関する社会通念上からも是認でき不法行為を構成せず、患者の意思に反する診療契約の解除も、「やむを得ない事由」があったと認められ債務不履行責任は不成立として、請求棄却された。
19年6月27日公開の研究報告書「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について」を参照して同年12月25日「応召義務をはじめとして診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号)が厚労省から通知された。
応召義務は、(1)法第19条第1項は医師等が国に対して負う公法上の義務で私法上のものではない。(2)労働協定・労働契約上で、勤務医が機関の使用者からそれらの範囲を超えた診療指示等を受け労務提供を拒否しても法第19条1項に規定の診療拒否ではない。(3)診療の求めに応じないことの正当化の判断に最も重要な考慮要素は患者への緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)である、とされた。
詳細は、報告書・通知を入手されたい。また、他の裁判事例等は、本紙第2973~2992号に連載。ご参照いただきたい。
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