政策解説 厚労省 コロナ禍と闘う医師へ非常識・不見識な議論 医療計画見直しで感染症病床どうなる?  PDF

コロナ禍の中、厚労省が議論するのは
医療提供体制の絞り込み

 拡大の続く新型コロナウイルス感染症へどう立ち向かうか。勤務医であれ、開業医であれすべての医療者が死闘を強いられている。しかし、厚生労働省が新型コロナウイルス感染症が日本に存在しないかのように、通常の審議会を開催していることをご存じだろうか。本稿で紹介するのは厚生労働省の「医療計画の見直しに関する検討会」(以下、検討会)の議論状況である。本稿執筆時点で3月18日に第20回検討会が開催されており、資料を読む限りにおいて、そこにコロナの存在は認められない。
 かかる事態においてもなお厚労省が議論するのは、医療提供体制の絞り込みであり、財政抑制の議論である。大きく二つの議論を紹介したい。
 一つめは、「第7次医療計画の中間見直し等に関する意見のとりまとめ」である。医療計画制度はその出自自体、国家による病床数コントロール(規制)のために1985年に導入された。だが今日、二類感染症患者を受け入れる病床と医療スタッフが圧倒的に足りないことが明らかになっている。新型コロナウイルス感染症拡大による医療崩壊が現実的危機として立ち上がっている今日、「有識者」たちは医療計画の在り方をその歴史から見つめ直し、考え直す必要があるはずである。だが果たしてそのような議論がなされているのか。
 二つめは、「外来機能の明確化」についての議論である。国が医療計画制度、地域医療構想を通じて追求してきた病床数抑制と病床機能分化(そしてそれを通じた平均在院日数短縮による受療コントロール)だが、今度は外来医療にも同様の発想を持ち込む議論がなされている。今日、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、最前線で医療を提供する開業医の役割をめぐっての議論はほとんどなされていない。にもかかわらず「有識者」たちは従来からの外来医療の絞り込み路線に則った議論を進めている。この「外来機能の明確化」については、次号以降に掲載する。

第7次医療計画、20年度は目標達成
状況の評価、再検討

 現在、計画期間にある第7次医療計画(京都府においては「京都府保健医療計画」)は2018年度から23年度までの6カ年計画である。3年目の20年度には目標の達成状況等について評価、再検討を行うこととされ、情勢の変化等を踏まえ、必要に応じた見直しが求められている。厚労省の検討会において3月2日に示され、3月31日に一部訂正の上公表された「第7次医療計画の中間見直し等に関する意見のとりまとめ」は、そのための考え方をまとめたものである。
 とりまとめは医療計画における提供体制や成果指標について、5疾病のうち、がん・脳卒中・糖尿病、5事業(救急・災害・へき地・周産期・小児医療)と在宅医療についての見直し案を示す。例えば糖尿病であれば指標に、「糖尿病患者の新規下肢切断術の件数」や「1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数」を追加。精神疾患では「依存症専門医療等機関(依存症専門医療等機関、依存症治療拠点機関)数」「摂食障害治療支援センター」「てんかん診療拠点機関数」を追加するといったものである。

新型コロナ感染拡大の中、なぜ感染症病床確保に言及がないのか

 それらの意見は基本的にそれぞれの疾病・事業の充実を図る目的のものと評価できるであろう。しかしコロナ禍の状況下にある今日、感染症病床の確保について言及がないことは理解できない。
 感染症病床は医療法第7条に基づくものであり、一般病床と同様に基準病床数が設定され、都道府県が策定する医療計画に定められることになっている(同法第34条の四の十四)。基準病床数に関する基準は政令にて定める(同法第34条の二の六)。
 医政局通知(医政発0731第4号・2017年7月31日)には、精神病床、結核病床および感染症病床の基準病床数は、「都道府県の区域ごとに、規則第30条の30に規定する算定式に基づいて算定する」とある。
 医療法施行規則は、感染症病床の基準病床数の算定を「都道府県知事の指定を受けている第一種」「及び第二種感染症指定医療機関の感染症病床の数を合算した数を基準として都道府県知事が定める数」としている。
 都道府県知事は厚生労働省の「感染症指定医療機関の指定について(99年3月19日健医発第457号)」に基づく「配置基準」に拠って設定している。第一種感染症指定医療機関は都道府県の区域ごとに1カ所・2床、第二種感染症指定医療機関は二次医療圏ごとに1カ所、その人口に応じて設定される(下表)。その結果、京都府保健医療計画においても感染症病床数が一種・二種合計し、38床と規定されている。

(表)

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって今起こっているのは、感染症病床の不足である。京都府は「入院医療コントロールセンター」を設置し、7医療機関38床の感染症指定医療機関に加え、結核病床89床を活用し、入院受入体制を整えた(3月27日時点)。
 しかし今後、新型コロナウイルス感染症が一層の拡大傾向となることは避け難く、一般病床での受け入れが要請されることは不可避であろう。だが本来の法制度の建付・原則から言えば、感染症病床は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の第三十八条第二項の規定により、一般病床とは別に厳しい指定基準が設けられているのである。
 しかし、感染拡大の現段階において、「そんなことは言っていられない」というのが実際の話で、必要な対策を施した上で一般病床での受け入れは進めるべきであろう。だが、今回のコロナ禍が収束したとして、以降、果たして医療計画における感染症病床の取扱いが現在のままで良いのか。これは今、最も話し合われなければならないのではないか。

感染症 「配置基準」 一般 「指定基準」 と「基準病床数」 の見直しは

 国に検討を求めるべき四つの大きな課題がある。
 一つめは、感染症病床の「配置基準」である。今日用いられている配置基準では病床は不足した。まだ現在進行中の感染であるため、収束を待たねばならないだろうが、最低限、今回の発生数を基礎データにした基準の再検討が必要である。
 二つめは、一般病床の「指定基準」である。上記配置基準を変更してもなお病床が不足し、一般病床での受け入れが必要になる事態を想定するならば、一般病床の面積・設備の基準は感染症病床に準ずるものにしておく必要があるのではないか。
 三つめは、診療報酬制度の抜本的な改善である。常に感染症拡大に備えて空床を確保しておける診療報酬体系へ変更する必要がある。常に満床でなければ経営がひっ迫するような状態に入院医療機関を置くことがいかに危険であるか、今回の騒動から学ぶべきである。
 四つめは、「基準病床数」制度の見直しである。病床数抑制を国の計算式に委ね、全国一律の計算式で病床数をコントロールさせてきた弊害が今日の事態を招いている。基準病床数制度は廃止し、国が必要な病床数を都道府県と協議・合意の下に決定し、医療計画に沿って整備する仕組みを構想すべきである。
 本稿執筆中、4月11日付の日経新聞によると、厚生労働省は10日の衆院厚労委員会の審議で、再編・統合を必要とする公的・公立病院の「リスト」(約440病院)のうち、53病院が「感染症指定医療機関」に含まれていることを明らかにした。加藤厚生労働大臣は病院再編を従来通り進めていく考えを示したという。しかし4月16日のロイター発報道では、新型コロナウィルス感染者の病床不足が問題となっている中で、厚生労働省がこれまで進めてきた全国の病床削減計画を見直す可能性を視野に入れていることがわかったと報じている。
 今回の新型コロナウイルス感染症拡大は、国の医療提供体制政策の根本をあらためる必要を明らかにした。医療費抑制路線はもはや、破綻したのである。

 全文は厚労省HPからhttps://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000146913_00002.htmlで閲覧可能

(表)
配置基準(第二種)
人口30万人未満 4床
30万人以上100万人未満 6床
100万人以上200万人未満 8床
200万人以上300万人未満 10床
300万人以上 12床

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