鈍考急考6 中長期戦を耐え抜くために 原 昌平(ジャーナリスト)  PDF

 とうとう世界規模の大流行になってしまった。新型コロナウイルス感染は、欧州に続いて米国で爆発的に広がり、熱帯域にも飛び火している。
 こうなった以上、月単位の短い期間で終息は無理だ。年単位の中長期に及ぶ戦いを覚悟する必要がある。
 ワクチンまたは治療薬が実用化されるまで、少なくとも1年前後かかるのではないか(ウイルス性疾患なので漢方薬が効く可能性はある)。
 各国は鎖国状態を続けざるをえない。たとえ水際で流入を防いでも、国内の何らかの経路で集団感染が生じる可能性はなかなか消えない。
 中長期の戦いを見据えて、何に取り組むべきか。
 第1に、爆発的な拡大を防ぎ、医療のキャパオーバーを避けるには、人の移動や人が集まる機会の抑制を当分の間、続けざるをえない。
 感染防止のために事業活動・社会活動・日常活動を縮小してもらう必要があるのだから、一方的な自粛要請ではなく、積極的な経済誘導として補償を打ち出すべきだ。
 観光、宿泊、交通、飲食、教育、文化、娯楽といった産業の打撃はすでに大きく、物販にも影響が出ている。
 そうした分野の企業、個人事業主、フリーランスへの休業補償に加え、国民全般にも我慢を求めるのだから、一定の給付をしてはどうか。
 第2に健康危機、医療危機の継続に耐えられる保健・医療の態勢を築くこと。
 集中治療のベッド、人工呼吸器などの医療機器、消毒薬や衛生材料、軽症者の療養場所を確保するのはもちろん、そこで働く医療従事者が疲弊しないよう、人材を集める必要がある。衛生行政や検査の部門もそうだ。
 医療需要の減っている分野からの出向や派遣を含め、機動的に人材を確保できるよう公的サポートがほしい。医療法や診療報酬上の基準や手続きは臨時に緩めてもよい。医療現場が経営を気にせずに対応できるよう、十分な財源を投入する必要がある。
 第3に生活危機、経済危機が深刻さを増すので、雇用と生活の保障に力を注ぐこと。こちらも命にかかわる。
 事業主への雇用維持助成、フリーランスへの給付は、より手厚くしたい。1世帯30万円の給付金は減収の自己申告制で、前進だとしても、受け取れる世帯は少ない。継続的な給付も求められる。
 既存の法制度・社会保障をフル活用するのは当然だ。労働基準法に基づく休業手当、雇用保険の給付、生活困窮者への住居確保給付金、生活福祉資金の貸付、生活保護などは、基準や運用を緩めて利用しやすくする必要がある。
 第4に治療薬、ワクチン、検査キット、医療機器の開発や増産に資金を投入する。
 以上に述べたことを実行するには莫大な財源を要するが、社会の生死にかかわる「戦争」なのだから、国債を発行して日銀に引き受けてもらえばよい。需要が縮んでいるのでインフレにはならない。
 今は生命、医療、生活、経済の維持が先決だ。将来に経済が回復して財政状況が問題になったら増税すればよい。財務省の言うことにとらわれていたら、沈没してしまう。

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