「転倒・転落に係るリスクマネジメント」について
実施期間=2020年2月10日~2月28日
対象者=代議員87人、回答数=47人(回答率54%)
トラブル回避も念頭に転倒・転落対策を
協会は会員から医事紛争に関する多くの相談に対応しており、その中で「転倒・転落」に関するトラブルが毎年報告されている。そこで、院内・院外における「転倒・転落」事故の発生場所や原因、あるいは対策等の状況を把握するためにアンケートを実施した。
まず、「転倒・転落」事故の発生の有無について尋ねたところ、「ある」が51%(24人)、「ない」が49%(23人)であった(図1)。次に、「ある」と回答した24人に対して、「具体的な発生場所」と「原因」について尋ねた。「転倒・転落」事故が発生した場所として、一番多かったのは「待合室」で50%(12人)、次に玄関の42%(10人)、屋外(駐車場)29%(7人)と続いた(図2)。原因としては、共通して「段差に躓いた」という理由が多く、また「雨で床が濡れていた」という回答も多かった。さらに、高齢者に多くみられる筋力低下に伴う足の「ふらつき」や「もつれ」も原因として挙げられた。その一方で、原因が「不明」という回答も散見された(複数回答)。
続いて、「転倒・転落」事故が発生した際、患者あるいは家族とのトラブルが発生したかを尋ねると「トラブルになった」は4%(1人)で、「トラブルにならなかった」は96%(23人)という結果であった(図3)。
次に、「転倒・転落」事故の防止対策については、「講じている」79%(37人)、「講じていない」21%(10人)であった。さらに、「講じている」と回答した方に具体的な対策を尋ねると「院内をバリアフリーにする」65%(24人)、「介助者をつける」43%(16人)、「その他」41%(15人)、「診療室の患者用の椅子に背もたれを付ける」27%(10人)となった(複数回答)(図4)。「その他」の対策としては、「階段に手すりをつける」や「高齢者に対して常に見守りや声掛け」「玄関に腰掛けを置く」などがあげられた。
最後に、「転倒・転落」事故に関しての不満や意見を聞くと、これまでは患者とのトラブルがなくても、今後はトラブルへ発展するのではないかと危惧する意見やバリアフリー等の対策にも限界があり、転倒防止の筋力トレーニングプログラムの広範な普及を望むなどの意見が出された。
以上の結果から、院内で「転倒・転落」事故は一定程度発生している様子がみてとれる。しかし、その多くがトラブルに発展していないことは幸いである。ただ、防止対策を講じていない医療機関が21%あることは少し気になる。転倒・転落事故は医療機関に過誤(管理ミス)がない場合でも、患者側は転倒・転落により負傷したという事実のみに注目し、医療機関側から賠償金が支払われないとなかなか患者側の納得を得られないケースがあり、協会としては最も解決し難い事故の一つとして捉えている。確かに防止対策にも限界があり、特に患者が高齢者の場合、身体的要因による転倒・転落ケースも見受けられる。しかし、医療機関としてできる限りの対策を講じることは、患者とのトラブルを回避する上で大切なことであり、その姿勢を示すことも患者との信頼関係を構築する上で重要であると考える。
図1 「転倒・転落」事故の発生の有無
図2 「転倒・転落」事故が発生した場所
図3 患者あるいは家族とトラブル発生
図4 「転倒・転落」事故の防止対策