政策解説 国民健康保険 都道府県化後3度目の納付金算定 厚労省は都道府県内の保険料水準統一に向け議論  PDF

■府の納付金は平均6.6%の減

 京都府は2月7日、2019年度第2回京都府国民健康保険運営協議会を開催。2018年度の都道府県化以降、3度目となる2020年度「国保事業納付金の算定結果」を示した。
 納付金は都道府県から市町村に提示され、市町村は示された納付金を都道県に支払えるよう、保険料率を各々決定し、賦課・徴収する(図※1)。納付金は市町村の医療費水準・所得水準を反映して算定され、都道府県化後も京都府では市町村別保険料が維持されている。ちなみに納付金算定において医療費水準をまったく反映させない場合は同一の都道府県内で統一保険料となる。
 20年度納付金は府全体で652億円であり、19年度に比べ46億円減(▲6.6%)、1人当たりでは、府平均で12万4,196円、19年度に比べ4,679円の減となった。
 府資料によると、主な減少理由として医療給付費の減(▲48億円)と前期高齢者交付金が+22億円となったことがあげられる。また1人当たり納付金が一定割合(=1人当たりの診療費の増+1%で設定)を超えないよう激変緩和措置を実施、国の激変緩和財源5.6億円に加え、府特例基金1.2億円を投入する。1人当たり医療費の減の主な理由は被保険者数の減だという。前期高齢者交付金は国保・被用者保険の65歳~74歳の前期高齢者数の偏在による保険者間の負担の不均衡を調整する仕組みであり、前期高齢者数が多いほど、交付額も大きくなる。

■市町村の状況は様々 引き上げの自治体も

 府全体の納付金は下がるが、納付金額が上がる自治体もある(表※2)。さらに納付金額が下がっても実際の保険料が必ずしも下がるものではない。
 例えば京都市は20年度について対前年度比93.2%の納付金、1人当たりで95.7%である。
 だが市の方針は保険料引き下げではなく、「保険料率の据置」である。
 市の説明は次のとおりである。「都道府県単位化により、財政運営の安定化が一定図られたが、高齢者や低所得者の加入割合が高いという国保の抱える構造的な問題の解決には至っていない」「本市においては、多額の一般会計繰入金を確保することにより、被保険者の負担軽減を図っているが、本市の一般会計も非常に厳しい状況にある」※3。
 京都市の一般会計繰入(本体会計から国保特別会計への繰入)は総額約172億円であり、そこに「法定外繰入」も含まれている。すなわち保険料を据え置くだけでも、収支均衡に法定外繰入が必要な財政状況だということになる。したがって繰入をやめれば保険料が一気に高騰してしまうことになる。
 納付金と各市町村における保険料決定に差が生じるのは、都道府県化されたとはいえ、各市町村の国保特別会計が経てきた独自の歴史・経緯があるためといえる。積み重なってきた赤字があり、積み上げてきた国民健康保険事業基金(各市町村で取り崩しが進んでいるというが)もある。法定外繰入で被保険者負担を抑えてきた市町村があれば、そうではない市町村もある。都道府県が納付金算定の際に用いる「標準的な収納率」と実際の収納率の差異もある。
 人口構成の違いも影響する。高齢化がさらに進み、後期高齢者医療の対象者が増えたり、一方で被用者保険の適用拡大が進んだりすれば国保被保険者数は減少する。
 1961年の国民皆保険達成以降、ずっと市町村は単独で保険者であり続けてきた。今日の保険料は歴史・経緯とさまざまな事実の組み合わせによって結果として導き出される。現時点では、市町村からみて国保都道府県化は給付面で確実に都道府県が費用を支払ってくれる点で安心感のあるものだろうが、保険料率決定に限っていえば、あくまで都道府県へ支払うべき「納付金」相当分を集めるという新たな目安がつくられた状況といえるだろう。

■厚労省は都道府県内統一を求める

 一方、京都市は「現在の保険料水準をいつまでも継続できる状況にはない」「国に対して、更なる財政措置の拡充に加え、国保を含む全ての医療保険制度の一本化など制度の抜本的改革を強く要望していく」と述べる。
 だが、医療保険制度の一本化は、少なくとも厚生労働省の方針にはない。むしろ同省が強調するのは「都道府県単位化の趣旨を一層深化させる必要」性である※4。同省は「同一都道府県内で、同じ所得・世帯構成であれば同じ保険料水準」(統一保険料)を目指しているのである。
 厚労省の濱谷浩樹保険局長は2月6日、全国の都道府県・市町村の国保運営協議会関係者を集めた会議で講演し、「法定外繰入の解消や保険料水準の統一に向けた議論を進めていくことが重要だ」と述べ、統一を目指す場合に「目標年次などを明確化し、ロードマップを描くことも考えられる」と述べたという。
 だが、市町村間に医療費の格差や収納率格差が存在する限り、統一化にあたって医療費の低い地域では保険料の高騰が避けられなくなる。そこで都道府県内の市町村間における「医療費の平準化」が叫ばれる。医療費の格差の要因とみなされている医療提供体制、医師数の差異の解消を目指すのが、今日の地域医療構想や医師偏在是正策なのである。

■保険者努力を競わせる仕組みも強化

 「平準化」の観点からもう一つ、指摘しておく必要があるのは「健康水準の向上」政策である。
 とりわけ医療費の高い地域では、データヘルス推進や糖尿病重症化予防、保健事業・介護予防の一体推進をはじめ、予防・健康づくりが求められている。国はそうした努力を「保険者努力」と呼び、都道府県化にあたって自治体の「努力」に対し指標を設け、その度合いを点数方式で評価し、交付金額を決定する「保険者努力支援制度」を導入している。同制度では20年度より、特定健康診査の受診率(都道府県平均値が30%未満の値となっている場合▲4点)や法定外繰入解消に向けた取組については加点のみならず「減点」が導入されている。
 京都府では減点となった市町村はないと聞くが、自治体同士が交付金のための点数獲得競争に追い込まれる事態は現実のものとなり、その結果が被保険者の保険料に少なからず反映していることも認識しておく必要があるだろう。

※1 京都市ホームページ(2020年3月5日閲覧)
   https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/
   0000228333.html
※2 2019年度第2回京都府国民健康保険運営協議会 資料1
※3 京都市国民健康保険事業の運営に関する協議会 2020年2月10日
※4 国保新聞 第2253号 令和2年(2020年)2月20日「保険料統一の議論を」

図 2018年4月からの国保の仕組み


2020年度 国保事業費納付金の算定結果

○2020年度の納付金は、府全体で652億円(2019年度に比べ46億円の減(6.6%減))
 1人当たりでは、府平均で124,196円(2019年度に比べ4,679円の減(3.6%減))
 〈主な減少要因〉
  ・医療給付費の減 ▲48億円(1人当たり診療費は微増の中、被保険者数が減少)
  ・前期高齢者交付金の増 +22億円(概算交付分は微減の中、精算返還分が減少)
○1人当たり納付金が一定割合(=1人当たりの診療費の増+1%で設定)を超えないよう激変緩和措置を実施
 → 国激変緩和財源5.6億円に加え、府特例基金1.2億円を活用
○市町村は、納付金をベースに、独自事業分(保健事業、条例減免等)を加味して保険料を設定

市町村 平成31年度 令和2年度
納付金額(百万円) 1人当たり(円) 納付金額(百万円) 1人当たり(円)
対前年度比(%) 対前年度比(%)
府全体 69,811 128,875 65,199 93.4% 124,196 96.4%
京都市 39,711 132,001 37,004 93.2% 126,307 95.7%
福知山市 1,806 125,243 1,697 94.0% 120,637 96.3%
舞鶴市 2,117 125,882 1,859 87.8% 114,328 90.8%
綾部市 793 108,130 797 100.5% 110,268 102.0%
宇治市 4,812 123,977 4,459 92.7% 120,207 97.0%
宮津市 538 113,682 543 100.9% 117,773 103.6%
亀岡市 2,301 119,092 2,192 95.2% 116,236 97.6%
城陽市 2,226 125,803 2,025 91.0% 121,069 96.2%
向日市 1,553 139,978 1,360 87.6% 131,278 93.8%
長岡京市 2,010 135,737 1,909 95.0% 134,358 99.0%
八幡市 2,028 121,681 1,901 93.7% 119,294 98.0%
京田辺市 1,731 132,262 1,646 95.1% 130,618 98.8%
京丹後市 1,687 122,033 1,589 94.2% 118,542 97.1%
南丹市 842 115,109 832 98.8% 117,412 102.0%
木津川市 1,968 126,616 1,829 93.0% 120,846 95.4%
大山崎町 343 121,318 342 99.6% 123,519 101.8%
久御山町 507 124,072 526 103.7% 138,597 111.7%
井手町 246 138,791 200 81.1% 118,305 85.2%
宇治田原町 306 140,521 297 97.0% 138,860 98.8%
笠置町 47 122,053 44 94.4% 121,183 99.3%
和束町 173 125,144 171 99.1% 130,112 104.0%
精華町 847 128,243 817 96.4% 128,050 99.8%
南山城村 84 107,810 85 100.8% 110,243 102.3%
伊根町 74 118,481 77 103.4% 119,785 101.1%
京丹波町 450 125,556 414 91.9% 117,354 93.5%
与謝野町 611 118,353 586 95.8% 116,062 98.1%

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