医師が選んだ医事紛争事例113  PDF

患者に虫垂炎の
診断遅れを疑われて…

(10歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、腹痛で母親に伴われて来院してきた。母親が虫垂炎ではないかと当該医師に聞いたが、血液検査の結果から虫垂炎は疑えなかったので「大丈夫です」と答え、急性胃腸炎と診断した。翌日に腹痛が強くなり、当該医療機関を受診したところWBCが20900/μLであったので、A医療機関に紹介した。A医療機関では急性虫垂炎と診断され、B医療機関で手術が施行された。手術は無事終了し、患者は数日間の入院の後に軽快退院した。
 患者側の主張は以下の通り。
 ①初診時に虫垂炎が診断されていれば、散らすなどの処置で手術にまで至らずに済んだのではないか②「大丈夫です」と当該医師は述べたが、もっと多岐にわたり疾病を疑い診断すべきだ。
 医療機関側としては、初診時の血液検査でも触診でも虫垂炎を疑えず、急性胃腸炎と診断したことは誤診ではない。また、患者の主張する②についても、根拠のない可能性は患者に説明すべきでないので、説明義務違反もないと考えた。また、患者側は初診時に虫垂炎ではないかと当該医師に言ったとされているが、虫垂炎ではなくイレウスと言っていたことがカルテ記載から証明でき、また、容態が改善しないようであれば、再度受診するように療養指導していたこともカルテ記載をしていた。以上から医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決と見なされるまで約3年間を要した。
〈問題点〉
 医療機関側の主張する通り、検査結果およびカルテからは、初診時に虫垂炎と確定診断することは困難であったと考えられる。さらに、今回の虫垂炎は糞石を伴うものであり手術適応があったと推測される(翌日の腹部CTで糞石を認めている)。患者は初診時に虫垂炎と診断されれば、手術を回避できたかもしれないと主張したが、今回の相談は先述のように手術適応があり、翌日に手術したことによる損害はないと思われる。また、当該医師は療養指導も行っていることがカルテよりうかがえることから、医療過誤は認められなかった。
〈結果〉
 カルテを患者に見せながら医療過誤がないことを根気よく説明した結果、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決と見なされた。

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