3月12日、協会は「どこまで責任を持てますか?―医療機関での転倒・転落」をテーマに、医療安全講習会を開催する。是非ご参集いただきたい。
そこで、関連する最近の訴訟事例を紹介する。
89歳男X1は、2012年11月18日に自宅で転倒して頭部を打撲し、K病院を受診し、外傷性くも膜下出血、脳挫傷の診断を受け、A病院に入院したが、アルツハイマー型認知症と器質性精神障害を生じ、長谷川式簡易知能評価スケールに回答不能であった。
その後、昼夜逆転生活を来し傾眠傾向やせん妄もみられ睡眠安定剤など適正な薬剤調整を要し、13年3月11日Y病院に転入院した。
同年5月3日X1は、午後7時50分頃、病棟内デイルームから独りで車椅子を操作して最寄りのトイレに行き、個室トイレ内で転倒して壁に前額部を打ちつけ声を挙げた。車椅子に座った状態で発見され、K病院に救急転送され、頚髄損傷と診断された。半年後に症状固定し、両上肢・両下肢機能全廃で身体障害者等級1級が認められた。
X1は、当時、歩行時にふらつきがみられ、転倒の危険性が高く、車椅子で座位が保てず転倒・転落の危険が高い場合は安全ベルトが使用され、トイレへも職員が付き添うこととされていた。当日準夜、病棟では准看護師B・C2人と看護助手1人の3人が勤務し、夕食時には他の病棟から看護師1人の応援を得て食事介助し、その後、Cが午後7時30分から45分までX1を含め14人の患者とデイルームにいたが、7時46分以後他の患者への与薬を開始した。しかし、Cは、X1が独りでトイレに行けば転倒の危険があるのを予見せず、頻尿もありX1の行動を注意深く見守る必要があったにもかかわらずトイレへの移動を見逃して目配り・気配りを怠ったとしてCの注意義務違反を根拠にY病院に対し、X1につき治療費54万余円・6カ月間の入院慰謝料244万円・後遺障害慰謝料2800万円等計3566万余円、X1の実孫で養子縁組した、X1の妻の死亡後以来20年間2人で暮らして来たX2につき慰謝料300万円等計330万円、合計3896万余円を請求して提訴した。
裁判所は、X1が4月中旬以降は、独りで車椅子を操作してトイレに行ったり独りで歩いたりする様子が見られており、トイレに行ったり独りで歩いたりした時に速やかに介助できるよう見守るべきY病院看護者の注意義務への違反を認め、X1につき後遺障害慰謝料2000万円を含む2559万余円、X2につき慰謝料など220万円、計2779万余円の支払いをYに命じた(熊本地判平成30・10・17)。
裁判所は、転倒・転落時の介護者の責任を厳しく評価しており、要注意である。
転倒・転落問題を含め高齢者の障害防止などに向け、医療安全講習会に是非ご参加下さい。
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