『開業医医療崩壊の危機と展望』 発刊を受けて 全世代の医師に読んでほしい開業医指針 齊藤 みち子(全国保険医団体連合会副会長)  PDF

 2018年8月2日、東京医科大学の入試で女性が差別を受けていたという衝撃的なニュースが流れた。報道によれば、同大学関係者は「女性が出産や結婚を機に離職することを懸念した措置」「大学病院関連の医師を確保するため、暗黙の了解だった」と語ったそうである。
 医学部入試における女性差別を生み出した最大の要因は、明治民法に始まり戦後高度経済成長期にわたり政策的に作られてきた「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業を前提とした医師の長時間の過重な労働にある。深夜まで時には当直後にも働き、不定期の呼び出しにも応じなければならないという現在の医師の働き方は、家事や育児などをすべてパートナー(妻)が引き受けなければ成り立たない。女性医師は、長時間労働に加え家事・育児の二重負担に耐えるか、仕事を制限して医師として低い評価に甘んじるかとの選択を強いられ、多くが出産や育児による離職を余儀なくされている。この離職者は約1万人と推計される。
 開業女性医師も苛酷な状況である。保団連女性部の調査では、出産した女性で産前休暇0日が27%、産後休暇10日以内が19%、労基法の強制産後休暇6週間をとれなかったのが約80%に及んだ。開業医が苛酷な状況にあることは女性のみに限らない。別の保団連女性部の調査では医師たちの仕事関連時間は一般の勤労者の約1・4倍であった。
 男女を問わず医師たちは過労死寸前にまで追い込まれ、国民は増える一方の医療費負担を強いられ苦しんでいる。まさに医療は危機的な状態にある。解決のために必要なことは、国の予算で医療費(社会保障費)に充分にお金を注ぎ込むことに尽きる。
 『開業医療崩壊の危機と展望』では、このような状態が作り出された経緯・その理由につき、さまざまな方向からの分析が行われ詳細に説明されている。まさに「知るほどに腹が立ち」ではあるが…。
 どうすればいいのか? 「新自由主義からの脱却」をはじめとした筆者らの豊富な経験の中から出た解決策も提示されている。
 若い医師たちのみならず、すべての世代の医師たちに本書を精読されることを勧める。

開業医医療崩壊の危機と展望―これからの日本の医療を支える若き医師たちへ
京都府保険医協会・編
かもがわ出版、定価本体1700円+税、2019年11月

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