社保研レポート
多彩な症例提示と解説 日常診療の呼吸器疾患
第657回(11/7) 日常診療における呼吸器疾患と保険上の留意点
講師:三菱京都中央病院 院長補佐兼呼吸器外科部長 京都府国保連合会 審査委員 山下 直己氏
今回は国保審査委員でもある講師を迎えて社会保険研究会を開催。日常よくみる呼吸器疾患の症例検討に各疾患に関連する保険審査上の留意点を交えた内容であった。
(1)COPDに合併した肺炎球菌肺炎、(2)広範囲に斑点状の陰影がみられるモラキセラ・カタラリス肺炎。いずれにしても気管支周辺の経気道的に炎症(散布巣)がみられるのが肺炎の特徴。続いて、(3)気管支拡張症で緑膿菌による細気管支炎を合併した症例。このような症例は今後も細気管支炎を繰り返す可能性が高く、クラリスロマイシンの少量長期投与を行うこともある。肺炎球菌ワクチンにおけるPPSV23とPCV13の関係についても紹介された。(4)結核で右上葉切除既往がある肺アスペルギルス症。診断に用いるアスペルギルス抗原は、侵襲性アスペルギルス症のみが適応で、軽症のアスペルギローマは適応外。またアスペルギルス抗体は保険未収載。(5)結核性胸膜炎では胸水による結核菌群核酸検出は陽性となるとは限らない。また、治療効果をみるためには胸水はあまり抜かずに、治療により胸水が減少するかどうかをみたほうが効果がよくわかる。
(6)間質性肺炎の急性増悪。肺炎を併発した症例である。改善後も間質性肺炎のレントゲン所見は残るため、この病態を把握したうえでないと、なかなか肺炎併発の診断は難しい。(7)薬剤性間質性肺炎もしばしば経験される疾患である。突然発症するので怖い面もあるが、ステロイドがよく効くのでタイミングを間違えなければ問題はない。CTでは肺全体に間質性陰影がみられ、かつ気道系とは関係がない点が特徴である。ただ、間質性肺炎の5年生存率は50%以下で、特にステロイドが効かない間質性肺炎の予後は悪い。診断に用いるKL—6、SP—A、SP—Dは主たるもののみ算定。ただ、どれが適しているかは測ってみなければわからないので、それぞれ測ってみて気になる検査で追いかけるということも考えられる。
続いて換気障害について。気管支喘息とCOPDがある。よく似ている面もあるが、気管支喘息は可逆性でCOPDは非可逆性である点が異なる。気管支喘息の最近の話題は呼気中の一酸化窒素測定。ただ測定機器は高額であり、手軽に実施できるものではない。(8)気管支喘息で特異的IgEがネコのケース。気管支喘息のフロー・ボリューム曲線は呼気終末に下に凸になるのが特徴。治療後、呼吸機能は正常に戻っている。(9)重度のCOPDのケース。フロー・ボリューム曲線はすぐに凸になっている。治療後もパターンはそれほどよくならない。COPDの90%以上は喫煙が原因である。気管支喘息、COPDに対する吸入療法については、薬剤の適応に注意して使用することが必要。フローボリュームカーブ等の換気力学的検査は、気管支喘息に対する吸入薬の効果判定のために、吸入前後にそれぞれ算定できる。ただし肺気量分画は1回のみの算定となる。
以上が講演前半の大まかな概要で、後半では嚢胞性疾患や腫瘍性疾患が取り上げられている。本講演では、審査に関する情報も含めて、多彩な症例提示と解説が盛り込まれており、是非保険医専用サイトの配信動画で実際の内容をご覧頂きたい。12月下旬に当日資料も含めてアップの予定である。URLは1面欄外をご参照いただきたい。