見つめ直そうWork Health(25)
吉中 丈志(中京西部)
グリーン病院を訪問
源進総合センターの代表は梁吉承医師である。1949年生まれ、ソウル大学医学部在学中反体制運動を理由に退学処分を受け、国家保安法(韓国版治安維持法 現在は停止中だが法律としては活きている)によって西大門刑務所に投獄された経歴を持つ。英国のエイレ国立大学医学部を卒業後帰国、人道主義実践医師協議会(人医協)に加わっている。センターには三つの施設がある。源進緑色病院(グリーン病院)、労働環境研究所(病院付置)、源進福祉館である。
被災した源進労働者たちの高齢化にともなって治療のための専門病院を求める声が高まっていた。土地を獲得して新病院建設を目指したが思うように進まず、暫定的な措置としてソウル市の東隣り九里市の民間スポーツセンターを借りて開設することになった。地下一階、地上二階を病院施設にあて病床数は40であった。3、4、5階ではプールやサウナがそのまま営業され、6階に労働環境研究所を置いた。
医師10人、歯科医1人を含む48人の陣容でスタートした。出身大学は、ソウル大学、漢陽大学、東国大学、高麗大学、梨花女子大、嶺南大学である。標榜は内科、外科、整形外科、小児科、韓方医科(韓国の医学教育では西洋医学と同じ履修年限の韓方医のコースがある)など9科である。
地下階はリハビリテーションと検査、1階に外来、放射線・超音波・内視鏡などの検査設備、調剤室、2階が病棟で韓方科の鍼灸・物療・調剤などの部屋もある。手術室は2室、救急車両も保有していた。
運営方針は次の5点であった。(1)医術は仁術という理念の下、予防、診断、治療、リハビリテーション医療を実施、患者は専門医から親切な説明と待遇を受ける、病院は過剰な検査、診断、施薬を避ける。(2)営利追及が目的ではないため診療利益は社会に還元する。(3)「環境即命」という認識の下、地域社会と労働の場における環境汚染とそれによる疾病の予防、治療と研究を行う。(4)ソウル大学保健大学院と姉妹提携して職業性および環境性疾患の予防、治療と研究を協力して行う。(5)隣接する漢陽大附属九里病院と相互補完的な協調関係を維持しながらグリーン病院の特性を活かす。訪韓した1999年、外来患者数は1日200人、そのうち二硫化炭素中毒症は3割であとは地域住民、入院も半分は地域住民だとのこと。
病院長の金禄晧医師は41歳(当時)、1958年生まれ。ソウル大医学部を卒業し同大保健大学院助教授、舎堂医院(人医協メンバーが開設)院長を歴任している。ハーバード大学保健学博士で家庭医学と産業医学の専門家だ。小児まひで自らも歩行障害を持つが、温厚で誠実な人柄が強く印象に残っている。現在はWHOに勤務している。人医協の医師たちから今も信頼されている。「国は違っても、同じ産災という問題にかかわっている方とお会いできて大変うれしい。私がもし日本に生まれていたなら、この訪韓団のメンバーの中にいたでしょう」と話した彼の柔和な表情が印象に残っている。「韓国では医療の面からの産災・職業病に対する支援はまだ始まったばかり。日本の長い闘いの歴史を学び、韓国のたたかいに生かしていきたい」とあくまで謙虚であった。